『股旅三人やくざ』

基本情報

股旅三人やくざ
1965/CS
(2004/4/17 BS2録画)
脚本/笠原和夫野上龍雄中島貞夫
撮影/古谷 伸 照明/井上孝二
美術/井川徳道 音楽/佐藤 勝
監督/沢島 忠

感想(旧HPより転載)

 「秋」「冬」「春」の三章からなるオムニバスの股旅映画。それぞれ笠原和夫中島貞夫野上龍雄が脚本を担当して、それぞれに普段と異なる味を発揮した、なかなかの佳作である。

 「秋」の章は桜町弘子の奇妙な女郎の設定が捻りすぎて分かりにくいのだが、竹林での殺陣を捉えた撮影の様式美が素晴しい。

 一方「冬」の章は志村喬松方弘樹藤純子の3人による密度の濃い演技が堪能できる舞台劇のような無駄の無い小品佳作。実際そのまま大衆演劇になりそうなよくできた密室劇で、ラストにはちゃんとほろりとさせてくれる良品。既に演技的頂点を過ぎていた志村喬黒沢明の映画のように輝いてはいないが、さすがに貫禄を見せるが、受けてたつ松方弘樹が一歩も引かないのが凄い。この役者は本当に実力派だと思うのだが、若山富三郎のようにもっと芸域を広げるつもりはないのだろうか。

 ラストの「春」の章は、監督とは名コンビの中村錦之助が軽妙なコメディ演技を披露して、春風のような笑いを誘う逸品。錦之助に絡む一途な村娘が入江若葉で、これがまた絶品。腹に一物の江原慎二郎の可笑しさも抜群で、こののどかな世界観で1本の映画でもよかったのではないかと思わせる幸福感溢れる作品だ。

 このあと邦画界の斜陽にともない、中村錦之助は凄惨な表情がトレードマークになっていくのだが、かつての時代劇スターが独特の個性としていた底抜けの明るさが失われて、日本映画は迷走していくことになるのだ。

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