基本情報
人間の條件 第5部死の脱出&第6部曠野の彷徨 ★★★☆
1961 スコープサイズ 90分+104分 @DVD
原作:五味川純平 脚色:松山善三、稲垣公一、小林正樹 撮影:宮島義勇 照明:青松明 美術:平高主計 音楽:木下忠司 監督:小林正樹
感想
第5部
■敗走してソ満国境から南満を目指す梶たちは、避難民たちと合流し、なんとか死の森を抜けるが、慰安婦の梅子(岸田今日子)が民兵に惨殺される。その後、赤軍の恐怖から逃れる女たちの一行を助けるが、合流した敗残兵桐山伍長(金子信雄)たちが極悪で、姉(中村玉緒)と弟を託したところ、送り狼で虐殺してしまう。(第5部)
■第一弾が満鉄鉱山、第二弾が兵舎内務班ときて、第三弾(完結編)は満州の曠野を彷徨いながら、敗残兵が中国民兵やソ連赤軍の兵たちの暴虐から民間の避難民を保護しきれるか、生き延びて自分の家に帰れるか?というお話で、やっと戦争映画らしくなってきた?病院で一緒だった丹下(内藤武敏)と再会して、労働者の兵である赤軍がなんで婦女子に暴行を働くのか?それは膨大な兵のうちにはごく一部で、不心得者もあるだろうという話なのか、構造的な、根本的な問題なのか?と問う内容となっている。
■天皇と呼ばれたキャメラマン、宮島義勇の撮影は、ロケ撮影の空の情景、雲とか太陽の位置に相当こだわっているようで、その意義は感じられる。もちろん、空が単に白く飛んでいるカットなどない。もともと松竹映画は空のディテール、つまり雲の情景をしっかりと狙う伝統があり、木下組で楠田浩之がその代表格だけど、単に事実として撮影するのではなく、心象風景として大事に撮る伝統がある。東映などでは、到底ありえないことだけど。本作の撮影効果の大部分はそこにあると思う。粘ったロケの成果だ。
■岸田今日子といえば、なんとなくほっそりしているおばあさんという印象があるけど、それは顔立ちからの印象で、じつはかなりしっかりした体格で、北満州でしぶとく生き残る慰安婦役をリアルに感じさせる。驚異的な気力と体力で、梶について行ったのに、無惨に殺害される。一方で、わざわざ大映から参加した中村玉緒は名家の生まれなのに汚れ役も忌避しない姿勢で、いい仕事を残した。撮影も気を使って綺麗に撮るよ。大映での仕事も含めて、このひとの立ち位置はちょっとユニークだと思う。
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■今回の敵役は金子信雄だけど、少し物足りない気がしたな。演出の問題かもしれない。このシリーズ、安部徹、南道郎、金子信雄と、悪役はわりとタイプキャストで、安部徹、南道郎がこれでもかというくらいにしつこく描かれたのに、金子信雄は出番が少ないからね。どうしても、そんな印象になる。(と思ったら、第6部で大活躍が残されているのだ)
第6部
■避難民たちの集落にたどり着いた梶たちは選択の時を迎える。女たちを保護して逃げるのか、別行動とするのか。だが、ソ連赤軍がやってくると、降伏して収容所に送られる。そこには非人道的な過酷な労働と桐原伍長(金子信雄)の仕返しが待っていた。せっかく懐いた寺田二等兵(川津祐介)を桐原に責め殺された梶は、復讐を遂げると、シベリア送りを寸前で収容所を脱して、一人南満にむけて曠野へ彷徨いでる。。。(第6部)
■ここでやっと高峰秀子が登場するけど、全く憶えていなかった。避難民の女たちが笠智衆をリーダーとして集住しているけど、みんな赤軍兵士に乱暴されている。そして、高峰秀子が川津祐介を男にするのだった。ただ、前半の岸田今日子のほうが扱いが大きくて、高峰秀子はあまり生きていない。勿体ないなあ。
■むしろ、金子信雄が川津祐介を責め殺す場面は、見覚えがあった。氷点下の極寒の中、便所の糞尿の運搬をさせて衰弱させる場面。そして、梶に復讐されて、便槽に沈む金子信雄。これ、明らかに後年の『陸軍残虐物語』のイメージソースだよね。これがあって、衝撃的で劇場で受けたから、うちならもっとえげつのう描いたるで!と意気込んだ東映の気持ちは分からんでもない。なにしろ、東映は宮島義勇の弟子の仲沢半次郎を撮影に起用した(露骨!)から兄弟作ともいえるのだ。
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■梶と心を通じた佐藤慶も内藤武敏も赤軍に投降してソ連に渡ったのに、やつらのやり方はどうしても「唯我独尊」に見えると違和感を感じた梶は最終的にひとりで脱走して、極寒の大地に命果て、人型の雪溜まりになる。正直、大長編の大団円としてはもう少し工夫がなかったものかと感じるが、まあ原作ありきだからそこはあまり改変できなかったのだろう。延々と独白で処理するのも、映画的には厳しい。せっかくぐいぐい9時間、全く飽きさせずに引き込んできたのに、惜しいなあと、正直感じるな。
■当時から梶のような強靭な意志と生命力で不合理に否を言い続ける人間はリアリティがないと批判されたようだが、実際そのとおりで、あくまで理想像が仮託されている。でも、それがあまりに超人的なので、ラストの行き倒れて果てる結末と釣り合いが取れないと感じてしまう。そこが根本的な弱点だろう。梶なら、なんとでも生還しそうに感じてしまうのだ。そこに、何か映画的な工夫が必要だったと思う。日本の軍隊の実情がいかなるものだったか、非常に念入りに執念深く描かれている点は貴重で、そこには確実に監督の怨念がこもっている。梶の強靭な生命力あってこそ、それらを照らし出して縦覧することができるわけだけど、その人生の最後の幕切れが困難になってしまった。
補足
■仲代達矢の証言が面白くて、死ぬときにどれか一本と言われれば、これを挙げると断言している。準主役から大作の主役に抜擢され、同時期に黒澤明の時代劇も掛け持ちして、絶頂期ですね。
■当然ながら現場は宮島義勇がかなり仕切って、君はこうきて、ここに止まって、動かない、動くとフレーム外れるからね!とか言って、現場では絶対(天皇だから!)なので、そのとおりにするんだけど、飲み会で黒澤明にそんな話をしたら、それは違うね!と言うけれど、現場では結局同じように言い出す件とか、大笑い。
■小林正樹は、やはり現場で空の情景、つまり雲の形に拘っていて、北海道ロケでも「満州の雲じゃない」といって、キャメラを回さなかったらしい。それは映画を観ていても、推測され、空の情景狙いの画作りが顕著なのだ。
■直接関係ないけど、俳優座の師匠だった千田是也の舞台の演技は凄かったので、それを受け継いで濃い演技になっていると語っていることで、聞き手の佐藤忠男も同意していて、どうも千田是也の往年の舞台演技は、かなり濃いものだったらしい。映画ではむしろ脇に徹して、肩の力を抜いた風情で、自然体を貫いたように感じるけど、実は往年の舞台演技ではそうではなかったらしい。まあ、舞台であの調子だと、台詞聞こえないわなあ。舞台と映画で器用に演じ分けていたようなのだ。へー
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