基本情報
死の壁の脱出 ★★★
1958 スコープサイズ 100分 @アマプラ
企画:芦田正蔵 脚本:石原慎太郎、西島大 撮影:横山実 照明:森年男 美術:木村威夫 音楽:佐藤勝 特殊撮影:日活特殊技術部 監督:滝沢英輔
感想
■敗戦後、インドネシア独立運動に加担するも挫折、トラウマを抱えて香港で殺し屋として生きる男(葉山良二)は日本に戻ると戦時中の上官(河野秋武)のもとで怪しいトランクの密輸と受け渡しに関わるが、そのブツはインドネシアで反政府運動を闘う活動家の資金だった。。。
■脚本が石原慎太郎で、滝沢英輔が監督なのでただの犯罪ノワールではなかろうと思ったけど、さすが捻った話で、ただ最終的には煮えきらないのが残念だった。慎太郎映画にハズレ無しの法則を提唱していたのだが、本作は失敗作。『カサブランカ』も想起するけど、そのまんま翻案したのちの『夜霧よ今夜も有難う』には及ばない。でも、かなりいいところを突いていて、これが成功していれば、『夜霧よ今夜も有難う』はなかったかもしれない。
■インドネシア独立戦争に参加するも何者かの裏切りで作戦は失敗、現地人の恋人(南田洋子)は死んでしまう。そして、現在の東京でその妹(当然、南田洋子!)と再会し、不倫に発展しそうになる。さらに、夜遊び令嬢(なぜか筑波久子)が絡んで三角関係になり、メロメロのメロドラマになるのは、のちのムードアクションにも通じる。戦争にも負け、インドネシア義勇軍でも挫折を経験してかつての理想は死に絶え、覚醒剤に頼って生き延びている敗残者の心に、まだあの頃の熱い「炎」は燃え残っているのか?テーマ性としては十二分なのだ。
■ところが、滝沢英輔の演出が冴えず、特にアクション演出がもっさりしている。これ、舛田利雄とか蔵原惟繕が撮れば、もっと先鋭的な映画になったかもしれない。戦前派の滝沢英輔は米国から降ってきた戦後民主主義に対する違和感をずっと抱えて映画を撮ってきた人なので、その意味ではテーマ的に通底する部分を持っているし、打ちだしもあるのだが、活劇として、メロドラマとしての決着が甘くて、うまく結実していない。とても残念だ。
■謎のトランクを狙うのはインドネシア独立を快く思わない某国らしく、一方でその中身を河野秋武も狙っている。迫る総選挙に向けて、某政党(清水将夫!)から資金提供を依頼されているからだ。多分、お話じたいは、後の『キーハンター』とかでも散々よくやってた類の国際謀略活劇なんだけどね。ただ、石原慎太郎が60年安保の挫折を予見している感があって、さすがにそこまで見通してはいないはずだけど、作家の想像力の発露を見た気がする。
■葉山良二は甘さが良いムードなんだけど、やっぱり後のムードアクションを思えば、歌がないのが寂しいと感じるし、演技的にも頽廃感がないのが辛い。覚醒剤中毒で、心は死んでいる男なのに、明朗すぎるからね。むしろ『第三の死角』などのほうが甘さをよく活かしていた。対する曲者の河野秋武は、さすがに複雑なニュアンスがあって、この頃の金子信雄では出せない人生の苦渋がほのかに滲む。
