アメさんに恨みはねえが、糞上官だけは許せねえ!『陸軍残虐物語』

陸軍残虐物語 [DVD]

陸軍残虐物語 [DVD]

  • 発売日: 2015/07/08
  • メディア: DVD

基本情報

1963 スコープサイズ 98分 @DVD
脚本:棚田吾郎 撮影:仲沢半次郎 照明:森沢淑明 美術:近藤照男 音楽:佐藤勝 監督:佐藤純弥

感想

■犬丸二等兵と鈴木一等兵は上官の亀岡軍曹を厠で殺害し、軍を脱走する。なぜ彼らは上官殺害に及んだのか、中隊内で何があったのか?というお話を東映らしく最下層の民草からの視点で、とことんえげつなく描いた軍隊残酷物語。アメさんと戦争して死ぬならまだしも、戦地に出る前にこれほどまでに理不尽な仕打ちが待っていて、部隊の上官だけは死んでも許せないという、当時よくあったお話を、戦争経験者たちがよってたかって作り上げた帝国軍隊恨み節。彼らは前線に出る前に、米兵と戦うこともなく味方同士の潰しあいによって落伍してゆく。
棚田吾郎という脚本家のオリジナルだが、そもそも棚田という人は以下のように書かれているように、平凡な脚本家という一般認識だったらしい。

その後も、大映東映、テレビ、その他で仕事を続けているが、相変わらず、大傑作もなく、また、大駄作もない。黙々と、静かにマイペースでペンを走らせて迷う風がない。
出典:「日本映画作家全史(下)」猪俣勝人、田山力哉 著

1950年代のいくつかの良作を褒めたあとの記述だが、本作と『廓育ち』をみると、職人的な脚本家がウェルメイドに書き上げる脚本とは異なる、強烈なテーマ性を持つ、大変な意欲作なので、イメージが狂う。
■本作も軍隊内の、本来軍規で禁じられている私的制裁が横行していた実態を赤裸々に描き、饅頭を盗み食いしたことをチクられた幹部候補生が腹いせに銃の撃茎を盗んで厠に捨てたことから便槽内で手探りで探索する羽目になる顛末がクライマックスとなる。当時の東映映画の観客は一般のブルーカラー、水商売、学生等がメインだったから、帝国陸軍のトップエリートたちがどう判断して動いたかといった東宝戦記映画的なマスゲーム的なドラマではなく、とことん底辺で蠢く名もなき民草たちの血と汗と泪と糞尿の匂いで描かれた戦記を作り上げている。
■しかも佐藤純弥の監督デビュー作で、東大出のエリートだけど、東映の風土に過剰適応して、とことん露悪的な作劇を衒いなく描く。この延長上には、確かにとびきりの傑作『実録 私設銀座警察』がうっすら見えてくる。
三國連太郎が少し頭の弱い農民を演じて、これまた女関係の素行の悪さで軍隊内でも浮いて問題視されている西村晃との身長差、体格差の対比がテーマを明確に表現している。西村晃は常にもましてノリノリであまりに早口で何を言ってるのかわからないほど。便槽に上半身を突っ込んで死んでいる姿を便槽内から映した場面がオープニングという徹底的に通俗な作風。これぞ東映の本気という開いた口が塞がらないえげつなさ。
■撮影の仲沢半次郎は、碧川道夫、宮島義勇というコテコテ理論派のキャメラマンの系譜に属する人で、独立プロの仕事でも有名な人。なので、リアリズム志向のキャメラマン山本薩夫の『にっぽん泥棒物語』のキャメラはさすがにびっくりするくらい雑だったが、本作は中間階調を生かした綺麗なモノクロ撮影を見せる。といっても、被写体は雨の厠とか便槽内の探索といった匂い立つ汚いものがメイン。それを至って真面目に撮りあげる。同時期の姫田真佐久の活躍には敵わないが、意外にも正攻法の質感の高いモノクロ撮影なのだ。正直、もっとコントラストの高いざらついたルックかと思ってましたよ。
■本作を観た黒澤明が『トラ・トラ・トラ』の別班監督として了承したという伝説も残っているくらいで、丁寧に撮られた意欲作にして力作ではあるが、先に『廓育ち』を観ちゃっているからそれほどピンとこないなあ。
maricozy.hatenablog.jp
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