怪奇趣味の同好の士に贈る!無性に愉快な怪奇スリラー『散歩する霊柩車』

基本情報

散歩する霊柩車 ★★★★
1964 スコープサイズ(モノクロ) 88分 
企画:秋田亨 原作:樹下太郎 脚本:松木ひろし、藤田傅 撮影:西川庄衛 照明:城田昌貞 美術:進藤誠吾 音楽:菊池俊輔 監督:佐藤肇

感想

■グラマな女房(春川ますみ)が浮気三昧なのに嫉妬した小男のタクシー運転手(西村晃)は妻を殺すと、霊柩車に乗せて、不倫関係にあった男たちを強請る奇妙な旅に出るが。。。

■というのがお話の発端で、このあと二転三転する凝りに凝った怪奇スリラーで、でも全体的にコメディであるという、なかなか日本映画では例を見ないマニアックで洒落た映画。とにかく監督の佐藤肇の趣味の良さを堪能する映画であって、怪奇趣味の同好の士にはまたとない贈り物。でも、出演者を見るとそんな間口の狭い映画ではなくて、主演は同年の日活映画『赤い殺意』のコンビだし、脇役が妙にオールスター。金子信雄渥美清加藤嘉、浜村純、小沢昭一曽我廼家明蝶と大物が顔見世程度のちょい役で登場する。でも渥美清の霊柩車の運転手はかなりの大役で、準主役レベル。

■とにかく主演の西村晃が怪奇映画にはピッタリなんだよ!ということを発見して証明したのが佐藤肇の慧眼で、あの骨ばった長い顔は照明の加減次第で表情が千変万化する映画的な顔立ちであることに尽きる。大映映画ならもっとノワールな映像のルックをこってりと描くところだけど、東映なのでそこは意外とあっさりしていて、フジフィルムらしい淡彩なモノクロ映像だけど、要所要所で西村晃の顔を不気味に照らし出すのが、まずは最高に楽しい。もちろん、春川ますみのグラマラスな姿態にこんな照明を当てても冴えないけど、西村晃の痩けた頬は照明効果だけで怪奇スターに変貌するのだ。しかも、演技的にも様々なバリエーションを繰り出して、山本薩夫の傑作『牡丹燈籠』以上の好演、怪演を見せる。

■なにしろ西村晃はノリノリでクライマックスで主題歌まで歌い出すし、菊池俊輔の楽曲もお馴染みの恐怖音楽に加えてテルミンを駆使した怪奇調を加え、こちらもノリノリ。趣味の映画を、好きな人々が寄ってたかってワイワイ言いながら楽しそうに撮りましたって感じの映画で、趣味性の高さは自主映画レベルだと思うけど、技術は一流だし、演者も一流という、贅沢極まりない、その筋の好事家向け(?)の怪奇スリラー。

■脚本の松木ひろしって、東宝の喜劇映画とか軽快なテレビドラマでの印象が強いけど、なぜかサスペンス映画の名手で、山本迪夫と岸田森の「木の葉の家」を書いて、『血を吸う』シリーズのフォーマットのレールを敷いた人だし、やっぱりこのジャンル好きなんだろうか。

■まあ、それはたまたまかもしれないけど、監督の佐藤肇は完全に好き好んでこんな映画を撮っている人。墓地で西村晃を見送る、通りすがりの少年の胡乱な目元とか、ラストの大木の妖怪の手のような禍々しいシルエットとか、押さえるべき細部はきちんと趣味嗜好のセオリーに沿って外さない。だって、大好きなんだもの!その意味では、後年、日活ロマンポルノで桂千穂と組んで怪奇大ロマン映画を撮ってほしかったなあと、切実に悔やまれる。

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