舟橋和郎がつい本気出した意外な秀作!シリーズ第5作『兵隊やくざ大脱走』

基本情報

兵隊やくざ大脱走 ★★★☆
1966 スコープサイズ 82分 @DVD
企画:久保寺生郎 原作 : 有馬頼義 脚本:舟橋和郎 撮影:武田千吉郎 照明:古谷賢次 美術:内藤昭 音楽:鏑木創 監督:田中徳三

感想

■大戦末期、慰問団とはぐれてソ満国境の朝倉部隊に拾われた芸人父娘(南都雄二と安田道代)を大宮(勝新)が内地への引き上げ列車まで送り届ける話と、その部隊が全滅したため、将校になりすまして入り込んだ柳田部隊で、取り残された病人や婦女子などの開拓団民間人を、師団命令を無視して救出に向かう活躍を描く、シリーズ第5作。

■残念ながら、2~4作を観ていない(たぶん大昔に観ている気もする)のだけど、基本的にはソ満国境地帯を大宮と有田(田村高廣)が部隊を転々としながら、陸軍組織の矛盾と腐敗に反抗し、無駄死にだけはせずに生き延びようと戦う姿が描かれている、はず。前作でいよいよソ連が侵攻してきたので、風雲急を告げる末期的な状態になっている。そのあたりの戦局のマクロな情勢は基本的に描かない割り切った作風で、草の根路線は東映並に徹底している。

■第1作は改めて観るとさすがに傑作だったけど、本作もなかなかの秀作で、ソ連の侵攻で敗戦間近の混乱状態のなかで、満州から民間人が避難する切迫した姿が描かれる。前半の慰問団父娘を引き上げ列車に送り届ける場面も、一緒に内地に帰ろうと安田道代に口説かれる大宮が有田を裏切れないからと引き返す場面も、末期の大映にしてはモブを出して頑張っているし、なかなか良い。欲を言えば、もっとフルに引いたスペクタクルなショットが欲しいところだけど、さすがにそれは予算的に無理ね。

■安田道代の件はそれで完全に終了して、後半が取り残された開拓団の救出作戦としたところが成功の肝(満州からの民間人の引き上げという点が共通テーマになっている)で、舟橋和郎がついつい本気を出してしまったようだ。なにしろ『きけ、わだつみの声』を書いた人ですからね。師団命令で撤収するから民間人の救出はできないと主張する部隊長(内田朝雄)に、有田が自分が救出に行きますと志願する、というかきっぱりと反抗するところが泣かせる見せ場で、さらに同行する兵の中に元憲兵なのに上等兵として部隊に潜む青柳(成田三樹夫)が含まれるのが、また盛り上がる。彼はトラックを奪取して朝鮮に逃げようと考えているのだ。そうしたサスペンス含みの救出行がきちんと描かれるから、とてもえらい。

関東軍満州を撤退する際に開拓団の民間人を置き去りにしたため、満州からの引き上げは地獄行となったというのが、戦後日本人のトラウマになっていて、軍隊は基本的に信用できないし、政府のすることも信用ならない、いざとなれば市民、民間人を見殺しにするに違いないというのが、日本人の共通感覚だった(かつては。今も?)。でも、陸軍のはみ出し者、有田と大宮は違う。彼らこそが真の愚直な軍人ではなかったか?という批判精神を、ついつい漏らしてしまうのだった。まあ、本来はもともとそういう軍隊組織批判の異色シリーズだけど。

■民間人を収容する際に有田が下す的確な指示がまた妙に感動的で、トラックに乗るのは病人と未就学の子どもだけだ!6歳以上の子どもはトラックに乗らず、歩いて続け!満州の荒野を母親とともに踏破した記憶は、きっと今後のお前たちの人生の支えとなるだろう!(意訳)と敢えて母子に厳しい指示を与える場面は、唐突に真正面からぐっと来る名場面だった。そして、部隊近傍まで悪路を踏破した少年を大宮が抱えあげて祝福する。坊主、よく頑張った!その輝かしいシルエット。この子らによって、戦後日本は復興を遂げるのだ。なんで、兵隊やくざみて、泣いてるんだろう?そんな不意打ちの秀作。



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