基本情報
人間の條件 第3部(望郷編)&第4部(戦雲編) ★★★☆
1959 スコープサイズ 180分 @DVD
原作:五味川純平 脚色:松山善三、小林正樹 撮影:宮島義勇 照明:青松明 美術:平高主計 音楽:木下忠司 監督:小林正樹
感想
■招集された梶は、内務班で地獄の内務班で初年兵として酷使されるが、仲間の小原二等兵(田中邦衛)は古兵たちに散々苛め抜かれて便所で自殺する。梶とは「赤い兄弟」と言われた、新城一等兵(佐藤慶)は人間が人間らしく暮らせると言われる国境の向こうの敵国に駆け込む。(第3部)
■最前線の青雲台地の部隊に配属された梶は上等兵になっていた。影山大尉(佐田啓二)と再会して、内務班の改革を唱える(赤いぞ!)が、古兵たちの制裁は一層過酷になる。だがドイツが敗北し、ついにソ連が国境を越えて攻め込むと、蛸壺の中で戦車隊と対峙することに。(第4部)
■第3部の内務班のいじめの構造が見事に描かれていて、これは後世に伝えるべき資料映像だと思う。たっぷり長尺な映画だからこそ描けた、軍隊生活のリアル。兵たちの挙動や作法を、リアルに省かず再現する。軍隊生活がいかなるものかを、知らない世代に体感させる。それがこの映画の価値だと思う。通常は時間の制約で割愛するところを、リアルに再現するから、そこだけでも貴重な映画だ。
■特に、第3部の田中邦衛のエピソードは真情がこもっていて、どう考えても、これがやりたかった映画なのだ。内地で嫁と母親が不仲で、手紙でいろいろと言ってよこすから心配でたまらない。そこを古年兵にイビられる。自殺した後に、その妻(倉田マユミ!)に梶が、半分は自分の責任だが、残りはあなたのせいだと責められる嫁の立つ瀬のなさもえげつない。もし、自分が徴兵されて、初年兵になったとき、きっと田中邦衛のようになるだろうし、田中邦衛の運命は自分自身の姿だと、当時の若者は思っただろう。今観ても、そのとおりに感じる。普通の人間は、梶にはなれないのだ。
■第4部は尺が短くて70分ちょっと。古年兵が梶に草履を咥えさせる屈辱の場面が有名(?)だけど、ドラマ的には意外と薄くて、ソ連軍の侵攻で本物の戦車(どんなつてで自衛隊が?)を投入した部分は開いた口が塞がらないけど、スペクタクル演出はまずい。というか、こういう場面は日本映画ではほぼ成功しない。後年の山本薩夫でも苦しかった。
■ただ、梶上等兵が預かる初年兵に藤田進がいるのが異様で、東宝では当然軍幹部を演じる人が、初年兵ですよ!しかも、古年兵の横暴に怒り狂って、殴り込むという役柄で、ほとんど後年の『兵隊やくざ』の先取り。このエピソードが受けたから、『兵隊やくざ』が企画されたのか?
■ソ連の戦車隊との戦闘が始まってからのやり取りなので、どうも流れに埋没しがちだけど、職業軍人の息子(川津祐介)と二等兵(小笠原章二郎)の会話が実は重要で、国家が先か、個人が先かという根本的な議論がかわされる。職業軍人の息子は当然ながら国家ありきと主張するが、二等兵は、国がなくても、嫁がいて、子どもと一緒なら、俺達はやっていけるんだと反論する。実際、手に職があって、どこの国に属しても必要とされるなら、国が敗れても生きていけるのだ。庶民は。非常に本質的な議論が、こんなところで雑に扱われているのが勿体ないけどね。小説ならば、周辺の状況に霞まないのだけど、映画の場合、大状況に飲み込まれるよね。勿体ない。
■第3部の南道郎がとにかく絶品で、こうした嗜虐的な古年兵が持ち役となった。顔立ちとアンバランスなダミ声が怖くて、もともと漫才師なのに、変質的なニュアンスが自然と出るのが、不世出のキャラだよね。

