誰かの魂にグサグサ刺され!見逃しダメ、ゼッタイの傑作!『ハケンアニメ!』

基本情報

ハケンアニメ! ★★★★
2022 スコープサイズ 128分 @TJOY京都(SC5)
原作:辻村深月 脚本:政池洋佑 撮影:清久素延 照明:三吉章誉 美術:神田諭 音楽:池頼広 監督:吉野耕平


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感想

■その昔伊丹十三の『お葬式』が予期せぬ大ヒットをとばし、「お仕事ドラマ」というジャンルが登場しました。という認識がどの程度正しいのか定かでないですが、大体そんな感じでしょう。特にテレビドラマで多いですね、なかでも人が死んだりするやつが一番刺激が強くて、引きが強いので、とにかく医者とか刑事とか、そんな職業ドラマばかりになってしまいました。安易ですね!

■本作も、予告編を見る限りは、定形通りのコミカルな「お仕事ドラマ」かと思いましたよ。そんな風に作られてますからね。でも本編はそうしたファンタジーとしてのお仕事ドラマではなく、かなりリアル志向の、お仕事ドラマというよりも、「お仕事を通して人間を描く」王道のドラマになっていますね。その真摯な視線に感動しました。

■土曜日17時のアニメ枠で雌雄を決することになる「サウンドバック 奏の石」と「運命戦線リデルライト」のアニメ番組。後者は伝説の天才イケメンアニメ監督・王子の最新作、前者は新人女性監督・斉藤瞳の第一作。でも、斉藤は王子に今季アニメ枠の覇権を取ると宣言する。。。

■というわかりやすい対立の構図を立てて、でも主人公は新人アニメ監督の瞳で、王子監督は引き立て役だ。基本的にリアル志向の映画だが、王子監督の設定は明らかにフィクションが勝っているからだ。それに対する斉藤瞳は実にリアルな一般庶民として描かれるし、吉岡里帆ナチュラルに、実にええ具合に演じる。

■それぞれの監督には尾野真千子柄本佑という心強いPが付いていて、それぞれの信頼関係の構築がサブドラマとして機能する。そして、この二人が実にリアルによく描かれている。柄本佑は明らかに昔の親父(柄本明)の演技を意識して演じていると思うが、前半は食えない軽薄な業界人っぽく見せて、終盤ではすべてお見通しの、斉藤瞳の最大の理解者だったと分かる、お約束どおりの上手い展開で、一番の儲け役。ズルいほどいい役!

■対する尾野真千子も、もう少し撮影チームは照明に気を使ったほうがいいと思うけど、素晴らしい見せ場を貰って、女優冥利に尽きることだろう。「私に局と戦えるだけの武器をください!」(※この台詞は映画のオリジナル)の場面は見事な名場面。こうした突き抜けた台詞と名場面が多いのがこの映画の凄さ。演者も引き立つし、台詞の生々しさが肺腑を抉る。いわゆる良いこと言ってます的な名台詞とか決め台詞的な浮いた台詞ではなく、仕事して生活しているリアルな実感がこもった、たしかにそこにある、実のこもった重い台詞だ。

■制作発表的なイベントで王子監督が語る挑発的な台詞も凄すぎて、ちょっと信じられなかったよね。心臓を鷲掴みにして、そこに粗塩をすり込む感じ?オタクたちみんなのトラウマに手を突っ込んでグギグリする感じ。この映画の本気度を否応なしに納得させられる凄いシーン。

■でも本作は主演の吉岡里帆の本気度を鑑賞する映画でもあり、原作に入れ込んで実現した映画化、しかも劇中アニメの制作をプロダクションIGが担当することで、初めて成り立った奇跡の企画であるから、完成しただけでも相当な幸運というところ。でも、本作の吉岡里帆は実に良いのだ。

■前から何度も吉岡里帆はそのゆるふわなルックスで損をしていると主張しているのだが、多分本人が一番そう思っていることだろうし、世間的にもそのせいで男に媚びる女という間違ったイメージが流布して損している気がする。彼女は決してそんなアイドル的な人気を期待していないし、喜んでもいない。本作も興行的にはかなり厳しいようだが、そうしたパブリックイメージと、本人の本気度の乖離が良くない方向に作用している気がする。吉岡里帆主演と聞くだけで、なんだかキツネどん兵衛のCMが浮かんできて、ぬるい映画と勘違いしてしまう傾向が世間にありはしないか。例えば同じく東映系で公開された『見えない目撃者』の強烈なゴア度と真正のサスペンスなど誰も想像もできないだろう。そしてあの映画もオリジナルの韓国映画を凌駕する傑作だったのだ。そのことは未だにきちんと認識されていないだろう。

■もちろん吉岡里帆の新人監督としての成長が描かれるのだが、随所に長廻しの演技的見せ場が用意され、特に前野朋哉と古館寛治を前に思いの丈を吐露する長廻しの場面は傑出している。演出も演技も、どや!って感じだけど、こんな場面を見せられると、人間の演技が最大の特撮でありVFXだなあと感じいるのだ。参りました。凄いです。

■さらに主人公のアパートの隣の部屋の少年との交流も点描され、これも実に見事。終盤で吉岡里帆が少年に語るシビアな台詞には、市川森一の魂が宿っていると感じた。実際、シビア過ぎて、リアル過ぎて、泣けた。『シン・ウルトラマン』よりも、こちらのほうがよっぽどウルトラシリーズだし、円谷プロテイストだと感じた次第。観ればその真意が分かるはず!
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吉岡里帆中村倫也の白っぽいファンシーな絵面に騙されてはいけません。実際の映画はもっとリアル志向なルックで、100%本気の人生映画です。脚本も監督も全く初めて聞く名前ですが、いきなり凄い仕事ぶりです!日本映画も、まだ捨てたもんじゃない!

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参考

吉岡里帆は本気です。ゆるふわって言うな!(誰も言ってない?)
maricozy.hatenablog.jp
こんな映画も喜んで出ます。それが女優の信念だから。月丘夢路は『ひろしま』に志願して出た。
maricozy.hatenablog.jp
アニメに比べるとトクサツはもっとマイナーな被差別少数民族だった。その怨念の深さたるや!(今もそう?)
maricozy.hatenablog.jp

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