寅さん、海を渡る?東映Pの謎企画『ぼくのおじさん』

基本情報

ぼくのおじさん ★★☆
2016 スコープサイズ 110分 @DVD
原作:北杜夫 脚本:春山ユキオ 撮影:池内義浩 照明:岩下和裕 美術:原田恭明 音楽:きだしゅんすけ 監督:山下敦弘

感想

ぼくのおじさんは、哲学者だけど、貧乏でぐーたらな居候だ。おじさんのことを書いた作文が懸賞で入選して、ハワイ旅行に行くことになったんだけど。。。

山下敦弘が『カラオケ行こ!』の前に撮っていた少年を愛でる映画。といっても変態映画じゃありませんよ。東映のPの須藤泰司が自分で脚本も書いた念願の企画で、松田龍平への宛書。でも一番引っかかるのは、いつの時代の話?という部分で、そこはあまり綺麗に解決されていない。そもそも原作は昭和30年代の話で、ハワイへ行くことの意味が、かなり違う。もちろん、そのことは監督も役者もわかっていて、そこを追及したらこの企画終わりだよねという認識で、企画に乗っている。でも、観客はなかなか素直に飲み込めないから、そこが根本的な弱点。

■しかも、全体の作りが寅さんになっているのも困りもので、寅さんにしか見えない。ヒロインが真木よう子で、山下監督は『週刊真木よう子』でも良いエピソードを撮っているけど、このヒロイン役はちょっと厳しい。そもそもおじさんが恋に堕ちる場面の白く飛んだカットが、単純に綺麗じゃない。純粋に技術的な問題だけど。それに、ハワイで働く女性ということで、顔が日に焼けてちょっとかさかさした乾燥した感じをリアルに狙っているので、女優の撮り方としては、さすがに厳しい。そんなリアルな映画じゃないのに。しかも、主筋の部分がお金の話だしね。おじさんがハワイ旅行の懸賞を当てるために、空き缶を集めるエピソードは単純に楽しいのにね。

■おじさんと恋のライバルになるのが戸次重幸という人なんだけど、知らない人だよ(薄々知ってるけど)。。。脇役として寺島しのぶ宮藤官九郎戸田恵梨香と無駄に豪華なのに、肝心の配役がこれでいいのか?このあたりのバランス感覚の歪さが、どうも娯楽映画としての枠を崩している。

■でも主役の大西利空という子役が素晴らしいので、子役と松田龍平のユニークな個性とのアンサンブルだけで持っている映画といえる。大西くん、常に頭頂部がつやつや光り輝いて、ナチュラルに天使の輪が出まくりなので、きっとリアル天使に違いない。『カラオケ行こ!』にしても、半素人子役の活かし方について、山下監督はなにか特別なメソッドを持ってるに違いないね。それはそれで演出家として凄いと思うぞ。もちろん、昔の相米慎二みたいにしごいているわけではないしね。基本的に脚本に無理がある企画なので、山下監督の仕事としては悪くないし、オーソドックスな出来栄えとも思うし、真珠湾を望み観る良い場面もあるけど、まあ、脚本が冴えないと、取り返せないわな。という映画でした。残念。


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