これからもずっと甘えていい?『こんにちは、母さん』(感想/レビュー)

基本情報

こんにちは、母さん ★★☆
2023 ヴィスタサイズ 110分 @イオンシネマ京都桂川
原作:永井愛 脚本:山田洋次、朝原雄三 撮影:近森眞史 照明:土山正人 美術:西村貴志 音楽:千住明 VFXプロデューサー:浅井秀二 VFXディレクター:横石 淳 監督:山田洋次

感想

■本作によって、山田洋次吉永小百合の『母べえ』『母と暮せば』に続く母三部作が完成したらしい。今知ったところです。

■さて。結局のところ、50歳前の一流企業の人事部長(大泉洋)が仕事がいやになって下町に住むお母さん(吉永小百合)のもとに逃げ込むというお話なので、随分甘いお話なんだけど、その母親が吉永小百合で、寺尾聰演じる牧師に失恋したところで、これからどんどん身体も言うことをきかなくなるしなんて弱音を吐いていたのが、息子だけでなく孫娘(永野芽郁)まで居着くことがわかると、急に元気になってまだまだ頑張らないとねといきいき動き出す。そんな甘いファンタジー見せやがって!とも感じるけど、実際にあの母親は生きる張り合いが出て、少し回春するかもしれないし、また新しい恋を見つけるかもしれない。そして、まだまだ(当面は)元気に生き続けるだろう。おめでとう、母さん。甘えてくれる人がいれば、生き甲斐があるね。

■欠点をあげつらえばいろいろあって、まずは冗長。演技のテンションは山田洋次がデビューした頃のプログラム・ピクチャーのそれと同じくらいなので、大泉洋はちょっと強すぎる。大スクリーンで観ると、特に大げさに見える。それで90分くらいにタイトにまとめてくれればいいのだが、台詞が長い。もっと圧縮できるはず。(まあ、原作が戯曲だからなあ。。。)

吉永小百合たちがボランティアでホームレスの支援を行っている件もあまり機能していなくて、田中泯が重要な役柄で登場するけど、中途半端で何を託したのかよくわからない。寺尾聰は、あの人は”天使”かもしれないと言うけど、あくまで一方的な当てはめで、時々正気を失って東京大空襲の記憶のなかで錯乱するけど、描き方が締まらないので、なんだか田中泯が気の毒な感じに。教会の前で体調を崩す場面の長廻しも、もっと力感がこもらないと劇的な見せ場にならないのだが、気力が抜けちゃっている。演出家の衰えというしかないだろう。吉永小百合が芸能界の父と慕った宇野重吉の息子と恋人(?)を演じるという配役の妙は、もちろん若い観客にはなんのことやらだけど、この映画の観客層(たぶん70歳代)にはビビッドに刺さるところ。でも、寺尾聰はもっと枯れた感じで宇野重吉ぽく演じるのかと思いきや、なんだか肉付きがよくて妙に元気そうなので、ちょっと調子が狂ったぞ。(いや良いことですよ。羨ましい)

■実は永井愛の戯曲が原作なので、それなりに筋が通っているだろうと期待して観に行ったのだが、リストラ担当の人事部長の苦衷とかも、あまりリアリティが感じられないし、リストラされるクドカン課長も挙動不審過ぎてちょっと危ない人だし、原作はどうなのかなあ。あんな変な人押し付けられた子会社は大丈夫なのか?とかいらん心配するよなあ(そこが会社組織のリアルな力学かもしれないけど…ああ怖い)。永井愛は信頼しているんだけどなあ。

■最終的に何がしたい映画なのかはわかったから悪くはないけどね。帰る実家があって、母親は健在で、まだまだ甘えさせてもらえそうだし、子どもが帰ってきて母親も悪い気はしない。例えそれが五十絡みのおっさんでもね。今まで知らなかった新しい母さん、こんにちは。改めてお世話になるから、よろしくね。そんな甘えたお話、映画だけにしてくれ。いや、だからこそ映画を観る意味があるのかもね。団塊ジュニア世代のおとこ(おじいさん?)たちは、みんな、いつまでも吉永小百合に甘えていたい世代なのだ、きっと。(なぜ?)


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