かたりの椅子 ★★★★

かたりの椅子
2010年 
NHK教育 芸術劇場
作■永井愛 美術■大田 創 演出■永井愛
出演■竹下景子山口馬木也銀粉蝶、大沢健、でんでん、松浦佐知子、内田慈、吉田ウーロン太、花王おさむ

■永井愛の経験した国立芸術劇場芸術監督選任騒動をモチーフとして、地方都市の財団法人に天下りした文部官僚が、町おこしの芸術イベントの方針について、気に入らない運営委員長案を、さまざまな官僚的手法で潰そうとする様子を、恐るべきリアリティで描き出す傑作舞台だ。財団法人理事長と、東京都から出向している地方官僚の振る舞いや、議事運営上のテクニックや懐柔によって運営委員会を骨抜きにしようとする有様や、彼らの犠牲として壊れてゆく市役所の小役人のいじましい行動、すべてが戯画化されてはいるものの、細密なリアリティを持っている。
■小さな財団法人とか、その運営委員会といった小さな組織体の官僚主義的かつ独善的な振る舞いをモチーフにしているが、地方行政の姿そのものの縮図にも見えるし、あらゆる官僚主義の典型的な姿にも見える。そう見えるように作りこまれた作劇はやはり見事というほかない。
■大沢健はいささか軽味が強すぎる気もするが、小役人の典型である沼瀬を演じるでんでんは役得といえるだろう。古くは「悪い奴ほどよく眠る」の藤原釜足が演じたような役どころだが、財団法人の理事長に命じられたことを愚直に実行するうちに、生真面目で不器用な思い込みが悲劇を生む姿は、強烈な普遍性を持っている。実際に、こうした力関係や心理的プロセスで自壊していったおじさんたちは、地方行政や中央行政に限らず、民間企業の中の官僚主義にあっても見られるはずだ。
■実質的な主人公とも言える、出世コースから外された文部官僚のエリート意識を抉り出した理事長の役柄は、銀粉蝶では多少ソフトすぎる気がするのだが、では、誰が適役だろうか。

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