佐藤純弥のヤクザ・ニューシネマの秀作『組織暴力 兄弟盃』

基本情報

組織暴力 兄弟盃 ★★★☆
1969 スコープサイズ 93分 @DVD
企画:俊藤浩滋、吉田達 原作:岩佐義人 脚本:石松愛弘 撮影:飯村雅彦 照明:大野忠三郎 美術:北川弘 音楽:菊池俊輔 監督:佐藤純弥

あらすじ

終戦直後に焼け跡で出逢った二人の復員兵木島(菅原文太)と大場(安藤昇)は、銀座をシマに頭角をあらわすが、木島は米軍の慰安所に殴り込んで逮捕される。三年後に出所したとき、組は会社組織に衣替えし、大場は「東京私設警察」を名乗って経済事件に介入する凶悪経済ヤクザになっていた。昭和30年代に入り、経済事件をめぐって同門の武上組(渡辺文雄)と対立した時、大物右翼の加納(内田朝雄)が介入してくると。。。

感想

佐藤純弥の「組織暴力」三部作の最終作。といっても続きものではなくて、現代ヤクザ組織を描く、結構なクールな社会派ドラマシリーズ。本作は時代を遡って、「銀座警察署長」を名乗った浦上信之という伝説のやくざをモデルとし、終戦直後から昭和30年代に至る戦後派ヤクザの生態にメスを入れる。

■なんと、映画の見せ場は「東京私設警察」の拷問部屋で社長や政治家などが散々いたぶられる残虐シーンで、このあたりは石井輝男の撮った残酷ヤクザ映画を意識しているかもしれない。ただ、佐藤純弥はドライなので、陰惨な場面というよりも、コミカルな場面になっているのが特徴。小松方正のリアクション芸人ぶりが見どころ。パクってきた社長をドラム缶にセメント詰めにして白昼堂々と海洋投棄する豪快なシーンなども、実に淡々と事務的に描くから、なんだか気持ちがいい(?)。多分、B班に任せたんだろうけど。

■なにしろ佐藤純弥の掲げたテーマが明確で良い。戦争から命からがら帰ってきて、誰かに自分の命を預けることのバカバカしさを痛感した男がヤクザになるが、こんどは戦後社会のなかでやくざ組織の掟が理不尽な妥協を押し付けようとする。でも時代の変化に適応できず、ホントは死にたかったんだと独り言つような主人公は、そんな組織の方針に納得できず、一匹狼にならざるをえない。文太はこう呟く。「社会が変わるか、俺が変わるかしか、どうしようもねんだよ」警官隊に集中砲火を浴びるこの映画のラストは完全にニューシネマそのものだ。

■戦後社会にいち早く適応して、経済ヤクザとして出世することで最終的には実業家を目指す大場を安藤昇がハードに演じると、対する文太は、戦後の日本の変化について行けないアウトローアウトサイダー)の哀しみをかなり滑稽に演じる。この文太のコメディ演技路線の柔軟さがこの映画の魅力で、でもそこに作者の素直な真情が籠もっている。文太の演技は既に半分くらいトラック野郎なのだ。

■米兵の慰安婦になっていたのを文太に救い出された女が、なんと野添ひとみで、なんでこの時期にこんな映画で濡れ場を演じているのか、映画史的なパースペクティブがよくわからないので混乱する。正直、演技的にも上手くなくて、最初は化粧が濃いのもあって、これ誰?て思いましたが、なんか経済的な理由でもあったんでしょうかね。でもちゃんと見せ場は用意してあって、意外にも丁寧に撮られている。文太にお腹の子を堕ろせと言われて「この子はあなたの子。この子は私の子。二人で殺すなんてできないわ」と応える終盤の場面なども、類型的な見せ場のはずなのに、石松愛弘の台詞が妙に心に沁みる。こういうところ、佐藤純弥の演出は良いと思うんですよね。何しろ『郭育ち』を撮った人ですからね。

佐藤純弥増村保造の『巨人と玩具』に感銘を受けたと語っているから、それで野添ひとみなのかもしれません。
佐藤純弥が助監督の頃、東映東京の助監督たちは増村派と中平派に分かれて議論したそうです。
特に日活映画は当時の若手助監督たちに人気があったので、その後の東映映画(東撮)は確実に日活映画の影響下にあります。

児玉誉士夫をイメージした右翼の巨魁がおなじみの内田朝雄、このシリーズの顔でもある丹波哲郎は特別出演くらいのイメージで、児玉よりも力を持った財界の大物役。この時代には、すっかり丹波節が完成していて、根拠不明な大物感を放出する。小松方正も、上田忠好も、田口計も、穂積隆信も脇役使い放題って感じが、今見ると贅沢ですよね。そうそう、もう一人の顔、渡辺文雄もちゃんと出てますが扱いは小さい。後ろ向きに殺されちゃうので、大分のけぞってますけどね。


参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
佐藤純弥って、深作欣二よりずっとアナーキーだった気がする。いや、間違いない。
maricozy.hatenablog.jp
でも、こんな名作をさらっと撮ってしまう謎の人。忘れられた傑作。映画館のスクリーンで観たいなあ。
maricozy.hatenablog.jp
東映ならではのえげつなさ。とこととん草の根からの視点。
maricozy.hatenablog.jp
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