俺たちは負け犬だけど、まだ旗は巻かない!『新幹線大爆破』

基本情報

新幹線大爆破 ★★★★
1975 スコープサイズ 152分 @NHKBS
企画:天尾完次、坂上順 原案:加藤阿礼 脚本:小野竜太郎、佐藤純弥 撮影:飯村雅彦 照明:川崎保之丞 美術:中村修一郎 音楽:青山八郎 特殊撮影:小西昌三(NACフィルムエフェクト)、成田亨(モ・ブル)、郡司製作所 監督:佐藤純弥

感想

■何回観たか憶えていないけど、かなり久しぶりに再見した。長いので二回に分けて観ようかと思っていたのに、一気に観てしまった。完全に半日潰れてしまいましたよ!でも、やっぱり抜群に面白いわ。

■詳しい制作背景はwikipediaに詳しいので割愛するけど、東映が東京撮影所の存亡をかけて取り組んだ大作で、特撮にも力が入っていて、特撮シーンを大々的に売り物にした。でも、特撮研究所矢島信男ではないのは、当時特撮研究所はテレビ映画担当でリアル志向な大作映画には不向きという棲み分けがあったのだろうか。

青山八郎の音楽がところどころ妙に場違いな楽曲をつけているのが昔から気になるところで、タイトルバックの楽曲もうそうだし、ラストの健さんが撃たれた途端にジェットストリームみたいなメローな楽曲が流れるのも謎だ。さすがにもう慣れたけど。でも、回想シーンに流れるスキャットが抜群に良いので、今回もずっと泣かされましたよ。倒産した町工場の社長、学生運動に挫折した過激派崩れ、集団就職の沖縄青年が国家(国鉄の盲点)に挑戦するピカレスクロマンであり、新幹線と乗客の安全を守ろうとする働くおじさんの職業倫理を問う物語にもなっていて、気宇壮大な犯罪サスペンスで、当時流行のパニック映画。同時期に東宝では『東京湾炎上』という大きいんだか小さいんだか中途半端な規模感のパニック映画を公開していたが、明らかにこちらの方ができは良い。

国鉄は安全重視でお金を払ってでも(どうせ国が肩代わりするしかないから、国鉄は痛くない?いやいやそんなに甘くない)爆弾解除を進めたいのに、警察は威信にかけて犯人確保にはやるから齟齬が生じるあたりも非常にリアルでヒリヒリする説得力があるし、国鉄の生真面目な司令長に宇津井健を据えたのも配役の妙。終盤で、万一爆発が起こった場合に備えて、北九州工業地帯の損害を避けるため山口県の田園地帯を「ゼロ地点」として新幹線を停車させるという政府の非情な決定がくだされるあたりも見事なもので、宇津井健と新幹線総局長の永井智雄の対立に激しく燃える。このあたりの、組織決定と個人の信条の対立構図は同監督の『組織暴力 兄弟盃』を想起するなあ。宇津井健は生真面目な菅原文太なのだ。通常、日本映画でこの規模の犯罪サスペンスは原作ものなんだけど、完全に映画オリジナルでお話を作ったところが稀有なことで、それだけで本作は空前絶後の存在といえる。

■もちろん見どころは多数あるけど、高倉健山本圭の以下の会話は泣かせる名台詞で、本作の白眉。山本圭の台詞に熱い涙が溢れる。学生運動の過激派セクト内ゲバで挫折して、スナックのホステスのところに転がり込んでヒモになるが、このままじゃ俺は駄目になると飛び出した男。ザ・負け犬。その意味では、山本圭では少しカッコ良すぎるかもしれない。

沖田「俺たちは誰も殺さない、誰も殺されない完全犯罪をやるつもりだった。そうだろ?今、浩が死に、お前はこのざまだ。そろそろ旗を巻く頃かもしれんな…」
古賀「…今旗を巻けば浩が生き返んのか?俺は元どおりの体になるのか?」

古賀「ああ…今旗巻くほうがもっと見苦しいぜ…いいじゃねえか、浩が死んだって、俺が死んだって!極端に言えばあんたまで死んだって、この仕事やり遂げりゃあ、俺たちは見苦しくなくなるんだ!」

■ちなみに、丹波哲郎はなにしろ東宝の『東京湾炎上』にも主演するし、スケジュールの都合上、特別出演の扱い。同じく特別出演で田中邦衛山本圭の兄役で出ているのは明らかに『若者たち』を踏まえた配役。山本薩夫の『皇帝のいない八月』でも山本圭橋本功と共演するから、『若者たち』の影響は大きいよね。

東映という会社は、ときどき社運をかけた大作を博打的に制作して、なぜだかわりと打率がよくて、結構ヒットしているんだけど、本作は封切り時不発弾で後年評価が高まった。まあ、そもそもこんなに偏った先鋭的なテーマ設定によくも社運をかけたものだとか、どんな会社やねんとか、いろいろといい意味で呆れる映画。色んな意味で、こんな映画づくりは今後もうありえないわけです。


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