完璧な様式美!だけどドラマは薄い…『緋牡丹博徒 花札勝負』

基本情報

緋牡丹博徒 花札勝負 ★★★
1969 スコープサイズ 98分 @DVD
企画:俊藤浩滋日下部五朗 原案:石本久吉 脚本:鈴木則文、鳥居元宏 撮影:古谷伸 照明:金子凱美 美術:富田治郎 音楽:渡辺岳夫 監督:加藤泰

感想

加藤泰によるシリーズ第3作。明治中期の名古屋を舞台に、緋牡丹博徒の偽物(沢淑子)とその旦那で化け安(汐路章)の夫婦が絡む。厚田神宮に奉納する勧進賭博の利権を争い、金原一家(小池朝雄)が西之丸一家(嵐寛寿郎)を追い詰める。

加藤泰もこの頃には完全に独自の様式を完成させていて、構図、カッティングともに比類ない。ただ、基本的にお話は類型的だし、お竜さんはドラマに積極的に絡まず、流れ者の高倉健とささやかな情感を交わすだけで、大きなドラマを背負わない。キャラクターとしてのお竜さんでみれば、前作のほうが秀逸だった。

藤山寛美は大きくタイトルに出るが、実際は警官役で特別出演するだけで、加藤泰としてはご贔屓の沢淑子(任田順好)と汐路章が因果な夫婦役ということで満足したんじゃないか。嵐寛寿郎も力演するし、小池朝雄も例によっていい声で好演する。

加藤泰独特の奥行きの深いというか、縦方向に振り切った様式的な舞台装置で男女の情感を歌い上げる名人芸の世界で、健さんは一瞬触れたお竜さんの手のぬくもりにおふくろの暖かさを垣間見る。まあ、確かに、傘を貸してくれたり、傘の受け渡しでそっと触れた手のぬくもりを根拠として、お竜さんの大量殺人の罪をひっかぶる渡世人というありえない心理劇を納得させる大技は圧巻ではある。

■そして、こうした様式美の世界はなぜか映画マニアに非常にカルトな人気を誇り、同時期に鈴木清順も同様に異常に崇拝されたものだが、もっと普通に撮ってくれても大丈夫ですよ。と、最近はむかしの日活のモノクロ映画ばかり観ていて、すっかり嗜好がリアリズム寄りになってしまったから、そう感じてしまうのだな。


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