ザ・ガードマン「すすり泣く美女」「怪談・壁から出る幽霊」

■「すすり泣く美女」は彫刻のモデルにと若い女性を屋敷に誘いこんで凶行に及ぶ狂った自称彫刻家を描く怪奇編。モノクロ時代(昭和42年)の作品で、低予算ながらセットも組んでいるし、照明効果は映画並みで、凝った怪奇趣味が堪能できる。ただ、ラストの大団円が意外とあっけなく、せっかくの怪奇ムードが画竜点睛を欠くのが残念。せっかくの見せ場なのに押しが足りない。脚本は加瀬高之、監督は黒田義之カニバリズムをさり気なく仄めかすあたりは秀逸なのだが。撮影:佐藤正、照明:内藤伊三郎、美術:井上章、ゲストは春日章良、真理明美

■(補遺)もう一度観たら、これ実に禍々しいグランギニョル劇で、脚本も演出も明確に強い意図をもってやっている。「あそこの家は肉を注文しないからねえ。それなのに時々肉を焼くにおいがするんだ。」と冒頭に近所の肉屋に語らせおいてそれ以上は掘り下げないんだけど、狂った彫刻家(実は...)が何をしていたのかは察しが付くようになっている。テレビドラマでよくやったよね。なんでそこまで怪奇劇に入れ込むのか不思議な気がする本格派怪奇ドラマ

春日章良の変態演技も素晴らしいし、後半で地下のアトリエに舞台が移るあたりの転換も見事な怪奇趣味。ただ惜しいのは、せっかくのラストのカーテンの向こうの謎解きの画面がきちんと表現されないところで、ここが腰砕けなのはあまりにも勿体ない。待ってましたの怪奇美の大見えを切るところなのに。ここにこそ当時の放送倫理コードが影響している気がする。自称彫刻家(実は...)の残した一世一代の傑作がきちんと描写されないでは、このお話は成り立たないのだ。

■そして、屋敷に響くすすり泣きく女は生きた人間ではなく、まごうことなき死者の、あるいは亡霊のそれであったことが最後には確定する真正の怪談ドラマなのだ。黒田義之は、本格派の怪奇映画作家だったようだ。



■「怪談・壁から出る幽霊」は、おなじみポーの「黒猫」をモチーフに、1億円横領の事実を知った社員を殺して、新築社屋ビルの壁に死体を塗り込めたが、昇進した自分の部屋がまさにその場所だった!という愉快な怪奇劇。脚本は山浦弘靖佐藤肇、監督は佐藤肇。怪奇趣味の人、佐藤肇だけあって、死体を緑色の照明で照らし出して異様な効果を狙うなど、さすがに細部に凝っている。横領した1億円を狙って社内の小悪党どもが群がるというサラリーマン怪奇劇という趣向も愉しい。しかし、幽霊は出ないので、看板に偽りありだ。お馴染みの悪人たちが自滅してゆく物語。成田三樹夫清水紘治、永井智雄という配役も豪華でいいなあ。清水紘治は若すぎて誰だかわからなかったよ。

© 1998-2024 まり☆こうじ