散歩する侵略者 ★★★

散歩する侵略者
2017 スコープサイズ 129分
Tジョイ京都(SC2)
原作■前川知大 脚本■田中幸子黒沢清
撮影■芦澤明子 美術■安宅紀史
照明■永田英則 音楽■林祐介
VFXプロデューサー■浅野秀二 VFXディレクター■横石淳
監督■黒沢清

■久しぶりに黒沢清の新作を観たぞ。『岸辺の旅』も『クリーピー』も未見なので、最近の黒沢清の作調は知らないのだが、全く変わっていなかったよ。いつもの黒沢清。20年前の黒沢清と何も変わっていない。まるで90年代のVシネマのような映画だ!

■人間から「概念」を奪って人間を理解したうえで大規模な侵略を開始しようとする宇宙人の物語で、当然のことながら冬木透のような宇宙的に不穏な音楽が流れるし、ウルトラセブンの影響は大だと思うが、小劇場の舞台劇が原作なので、怖い映画ではなく、クスクス笑いの映画として演出している。実際、侵略者の侵略方法や目的が徐々に明らかになる2幕目あたりまではかなり上出来。クスクス笑わせながら、サスペンスも効いているし、松田龍平長澤まさみの冷えた夫婦が愛を取り戻してゆく過程もちゃんとというか、かなりうまく描かれる。黒沢清の夫婦映画の系譜に属する新作であることがよくわかる。

■ただ、3幕目のスペクタクルのサービスシーンは正直言って蛇足で、長谷川博己のコント演技はおかしいし、ショッピングセンターでの演説シーンなども含めて、非常にカッコいい儲け役なのだが、まあ、爆撃シーンは要らない。終幕はむしろ、愛という概念を巡る夫婦映画の局面にもっと時間を割いて、松田と長澤の演技をじっくりと見せるべきだろう。こちらをメインに、アクション場面は簡潔に挟みこむくらいのバランスの方が単純に感情移入しやすいだろう。ラブホテルの場面は、もじどおり相米慎二のようにもっとじっくりと長廻しで、あるいは増村保造若尾文子のように長澤を撮って欲しかったし、ふたりのベッドシーンは必須じゃないかな。

■一方、おなじみの不自然なスクリーンプロセスの場面や自衛隊場面なども本作ではセルフパロディ的なギャグとして使われている。『回路』や『カリスマ』ではシリアスであった要素が、ここでは若干のクスクス笑い要素として用いられている。スペクタクル要素がすべてギャグとして用意されるのに対して、女子高生宇宙人のフィジカルアクションは異様に生々しい暴力として目を見張る。黒沢清はこっちの路線をもっと伸ばすべきと強く感じた。

長谷川博己はほんとに儲け役で、いろいろ変なことをやり放題でカッコいい。長澤まさみは実力を素直に発揮して、劇中で唯一のふつうの人を好演する。事件の2か月後が描かれるラスト、概念を奪われた彼女がどこへ到達したのか、鑑賞後にじっくりと考えを巡らせたくなる、そういう映画で、秋のはじまりに相応しい映画。

■製作は日本テレビ放送網、日活、WOWOW、松竹ほか、制作はジャンゴフィルム。文化庁文化芸術振興費補助金の助成作。

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