レディ・ジョーカー ★★☆

レディ・ジョーカー 2004 ヴィスタサイズ 121分 @DVD
原作■高村薫 脚本■鄭義信
撮影■柴崎幸三 照明■上田なりゆき
美術■中澤克己 音楽■安川午朗
視覚効果■橋本満明 合成■光学太郎 
監督■平山秀幸


 競馬場で知り合った5人の男達は、それぞれの思いを胸に秘め、日之出ビール社長誘拐、脅迫事件へと突き進む。日之出ビール社内では警察の目を欺いて、犯人の持ちかけてきた裏取引に応じる意思決定がなされ、警察内部では犯行グループに現役警官がいるのではとの疑いを深めていた・・・

 大阪出身の高村薫がグリコ・森永事件をモチーフに、事件の背景に裏社会の蠢動を見透かして執筆した小説の勇気ある映画化。部落差別問題が絡んできたり、在日朝鮮人が犯行グループに居たり、大企業のトップに揺さぶりをかける総会屋の暗躍が盛り込まれたり、関西出身ならではの問題意識のありかたがユニーク且つリアルだが、一橋文哉が「闇に消えた怪人」でそれらの要素を綺麗に透かし彫りにしてみせたこともあり、新鮮味というよりも、その問題意識の扱い方や人物造形に興味が注がれることになる。

 ただし、この映画はかなり観客を選ぶ作り方になっており、少なくとも部落差別というものがどういう歴史をもち、どれほど深刻なものであったかということを知らないと、渡哲也の犯行動機や辰巳琢郎の言動の意味や、長塚京三の選択の意味を察することができないだろう。大長編小説の映画化なので、本来は150分程度は必要なはずだが、ここでは犯罪チーム物のアクション映画の骨法を採用し、犯罪チームの結成、犯罪プロセス、犯行後に追い詰められる犯人たちという定石に忠実に作られている。

 その点では、実にドライな犯罪映画を狙った痕がうかがえるのだが、普通の観客にとっては単に説明不足と映るだろう。実際、様々なモチーフに対して、もっと的確な説明を盛り込めば、より厚みのある犯罪映画になったはずだが、おそらく1度見ただけでは狙いがよく分からないだろう。例えば”絶対的な貧困”という文句の持つ実感を承知できる観客など、今日ごく限られているだろう。おそらく小説では丹念に描き出されているだろう、こうした部分が、今ではもっと言葉を費すか、1シーンで映像で納得させるような演出的な工夫がなければ成立しないのだ。そこに、この映画化の困難さがある。いっそのこと、東映スタイルで高田宏治にでも脚本を書かせれば、もっと押しの強いドラマらしいドラマになっただろうし、あるいは大ベテラン新藤兼人なんていうのもアリではなかったか。

 犯行グループでは、渡哲也が「誘拐」とちょっと似た役柄のせいもあり、あまり生かされていないが、はぐれ警官を演じる吉川晃司が出色の演技で、大森一樹と3本も映画を撮ったのは伊達ではなかったことを示す。アウトローらしいアウトローの姿が鮮烈だ。脇役では刑事課課長代理を演じる外波山文明が実にリアルな存在感を示し、重要な役どころを見事に支えている。この映画は、犯罪をとおして、日之出ビールや警察内部での組織と人間の関係の変化を見据えたところにドラマとしての深みがあり、ただ少々言葉足らずで、十分に劇化されていない所に限界があったのだ。

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