■日之出ビールの採用面接を受けた男子学生が自殺する。彼の恋人は同社重役(しかも社長の義弟)の娘で、父親が身元調査を行い、被差別部落の血筋と知って結婚に反対していたことがわかる。しかも、その親戚の岡村という男が数十年前に同じ理由で同社工場を解雇されていた事実を知った総会屋は、日之出に違法な利益供与を迫る(エセ同和行為です!)。そんな折、日之出の社長が誘拐され、犯人グループのレディ・ジョーカーが以上の事実を知っていることを匂わすと、社長は警察の対応とは別に裏取引に応じる決意を固める。それは異常な事件の幕開けだった。
■という導入だけで人間関係が複雑で頭がくらくらするのだが、その後はもっと複雑に絡み合い、現役警官が指揮する犯人グループはまだ単純なもので、総会屋と闇金融投資グループや大物政治家の関係、警察と検察の思惑等々が交錯する。それでも原作小説よりは整理されていると想像しますがね。
■原作では、男子学生の身辺調査を行って露骨な就職差別を行うのは日之出本社ということらしく、さすがにビジネスマン向けのドラマ版はマイルドに改変しているようだ。ドラマでは身辺調査を行ったのは社長の義弟(男子学生の恋人の父)が個人的にという設定だったが、もともとは大企業の就職差別と、総会屋のエセ同和行為という設定だったのだ。この改変は良くないと思うがなあ。というか、単純に分かりにくくなったよね。でも、ドラマの舞台が昭和ではなく現代なので、さすがにそこまで露骨な就職差別はリアルに存在しないということかな。確かに時代が違いますね。
■ただ、ドラマとしてのカタルシスは薄くて、もやもやするのは高村薫だから仕方ないか。映画として、あるいはドラマとして成功するためには、もっと大幅にアレンジすべき。というか、そうしないと無理。そもそも原作を読んでいないので、あまり適当なことも言えないけどね。最後の最後が、数十年前に日之出を追われた一社員である岡村に帰結するというのも、正直ドラマだけでは腑に落ちない。小説では大企業たる日之出の暗部を巡る組合活動とか部落差別のエピソードが詳細に描かれて説得力があるのだろうが。
■柴田恭兵が社長役で大活躍なのも感慨深いけど、その秘書が矢田亜希子で、無駄に(?)キレイなうえに、妙に大役なのも見どころ。『クロスファイア』は遠い昔だけど、いまだに色っぽくて素敵。主人公と競り合う警部補の津田寛治の嫌味な熱演(血管切れそう)も見どころで、堂々たる貫禄。これは役得だった。捜査一課長は渡辺いっけい。出世したよねえ。「京都地検の女」では暴走おばさん検事名取裕子に振り回される検察書記官だったから!
■なぜか東阪企画が実際の制作を行っているらしく、いまどきのフィルムルックの高性能デジタル撮影ではなく、昔ながらのビデオ撮りドラマで、大昔のビデオ撮影を彷彿させる懐かしいペラペラのルックで、まるで昔の2時間サスペンスのよう。端的に言って、美術も映像も貧乏くさいのは困りものです。脚本は前川洋一、監督は水谷俊之、鈴木浩介。