二百三高地 ★★★★

二百三高地
1980 ヴィスタサイズ 185分
BSプレミアム
脚本■笠原和夫
撮影■飯村雅彦 照明■梅谷茂
美術■北川弘 音楽■山本直純
特撮監督■中野昭慶
監督■舛田利雄

日露戦争の天王山である二百三高地の攻略を、天皇から一般庶民までを複眼的な視点から描き出した戦争映画の傑作。今回高画質で見直して、その印象を一層強くした。

■何が凄いといって、人海戦術の戦場がどれほどの地獄であるかを延々と描写した第一部のクライマックス。死屍累々、鬼哭啾啾の地獄絵図の中に、生者とも死者ともつかぬ異形の者がふらふらと立ち上がり、戦場を徘徊し始める場面の戦慄は、数多の恐怖映画を超える瞬間だ。この世とあの世が繋がってしまったことをリアリズムで表現した、この映画の白眉である。

■そして、第一部の終幕に流れるのはさだまさし防人の詩だが、当時散々バカにされた楽曲とはいえ、時は流れて30年後の今日観ると、実にぴったりじゃないか。歌詞が殴り書きの字体でデカデカと流れるのには驚愕したが、大作映画のインターミッションとしてもベストの部類。二部構成の作り方もさすがに堂に入っている。

■また、感動的なのが、故郷に子供を残してきた兵士が命を落とすと、その魂が故郷に戻ったかのような(何故か市川崑風の)キャメラワークで雪の金沢の情景を映し出す美しい場面で、挿入曲の「聖夜」が抜群の効果を挙げている。今回観て、改めて感動した名場面だ。この米川という登場人物は、想定される観客に一番近いと思われる人間だからだ。(笠原和夫は新沼謙次を自分の分身と考えていたそうだが)

■一方、実質の主役である乃木大将についても、単に無能説をとるのではなく、軍組織の軋轢の中で翻弄され、敢えて木石に徹しようと務める人間として描かれて、非常に念入りに造形されており、観ていてこちらも辛くなる。次男の戦死の報を暗闇で耐え忍ぶ場面は、飯村雅彦の撮影、舛田利雄の演出も秀逸な名場面だった。丹波哲郎の演じる児玉源太郎のカッコよさも特筆に価する名演で、丹波節で無能な参謀たちを叱咤する場面は名場面だ。

■もちろん、明らかな瑕も多々あり、必ずしも完成度の高い映画とは言えないが、その欠点の多くは現場演出的な問題がほとんどで、笠原和夫の入念な群像劇は日本の戦争映画の金字塔を打ち立てている。

■ちなみに、地味な作画合成もかなり使用されていて、これは東宝映像の十八番で、完成度が高い。なのに、クレジットが無いのが気の毒だ。石井義雄と三瓶一信だと思うが。


参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
これは映画好きなら必読の名著ですね。ちょっと類書が思いつかない。

富国強兵、殖産興業の時代、家父長制の時代、市制の若者たちの青春はどんなものだったのか。後に世俗的な成功を収めた人間たち(明治の男たち)の語り伝えるところは、生存者バイアスで歪んでいる。明治の時代に生きて、滅んだものたちの声を発掘して伝えることの意義は大きい。その意味では立派に社会派映画なのだ。それが『野菊の墓
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同じく佐伯清の『からたちの花』なんて、誰も知らないけど。
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