クロスファイア ★★★

クロスファイア
2000 ヴィスタサイズ 115分
DVD
原作■宮部みゆき 脚本■山田耕大、横谷昌宏、金子修介
撮影■高間賢治 美術■三池敏夫
照明■斉藤薫 音楽■大谷幸
視覚効果■小川利弘、ビジュアルエフェクト・スーパーバイザー■松本肇、岸本義幸、杉木信章
監督■金子修介

■なんとなく思うところあって、随分久しぶりに鑑賞。最大の問題はクライマックスで明らかになる悪役の設定とその描き方にあって、原作から改変するについて、悪役の設定は脚本開発の時点でも苦労した部分らしい。結果的にうまくいってなくて、美点が多いこの映画が忘れられてしまう理由にもなっている。悪役の設定に相当無理があり、演技的にも説得力がないのですよ。

■あとやっぱり気になるのは桃井かおり原田龍二の刑事コンビで、桃井かおりの軟体演技は基本的にこうした映画とは相性が悪い。原田龍二とヒロインが昔遭遇しているというエピソードのご都合主義が足を引っ張っている気もする。桃井かおりの役どころはむしろ石橋蓮司でよかったのではないか。

■しかし、矢田亜希子の演技は今見ても素晴らしく、金子修介の慧眼と演技指導の賜物だろう。基本的に演技的な資質が高い女優らしいが、超能力者という難しい役を昏い情念で演じ切る。

■本作は金子修介が『ガメラ3』と『GMK』の間に撮った映画で、実質的に特技監督を兼ねているようだ。技術スタッフには特撮に精通した面々を置いている。本来なら、神谷誠とか浅田英一くらいを特撮班の演出家として置くのが相応しいくらいに特撮シーンは分量が多いのだが、敢えてそれをしていない。『GMK』で当初特技監督を兼ねる方向で準備が進んでいたのは、本作での成功経験があったためではないか。

■本作のDVDはオーディオコメンタリーが興味深く、クライマックスの回転木馬がらみのシーンは後日リテイクが出て、おかげで回転木馬のミニチュアの前で矢田亜希子は演技をするのだが、このカットが全く不自然さがない。実際の遊園地でのロケカットとカットバックされるのに、見事に繋がっている。しかも、矢田亜希子のカットの背景のボケ味がロケ撮影よりも綺麗というマジカルな撮影。このあたりは映画撮影マジックの真骨頂といえる。

■映画史的には東宝変身人間シリーズの末裔に属すると考えられる。というか、はっきりとそう認識すべき。金子修介はもちろん悲恋物語として『ガス人間第一号』を踏襲しているし、『電送人間』の要素も入っているかも。企画倒れに終わった掛札昌裕の『火焔人間』という幻の映画があって、その要素も律儀に受け継いでいる。さらにいえば福田純の『エスパイ』のリアル版という位置づけも可能だ。そうそう、『エスパイ』は東宝変身人間シリーズに入れるべきなんだ。そうすれば、本作も自然と落ち着きどころが定まる。そして、特撮を駆使した、人間社会におけるマイノリティの恋愛(悲恋)映画としての東宝変身人間シリーズの可能性が拓けるはずなのだ。そのためにも、本作はもっと注目されるべきなのだ。

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