犬ちゃんが教えてくれた!超能力は愛だ!『エスパイ』

基本情報

1974 スコープサイズ 94分 @アマプラ
原作:小松左京 脚本:小川英 撮影:上田正治、原一民 照明:森本正邦 美術:村木忍 音楽:平尾昌晃、京建輔 特技監督中野昭慶 協力監督:大森健次郎 監督:福田純

感想

■世界的国際紛争の火種として懸念されるバルトニア問題を解決するキーマンであるバルトニア首相の暗殺計画を阻止せよ。超能力を駆使して世界平和のために戦う超能力部隊エスパイたちに命令が下った。ベテランの田村(藤岡弘)とマリア(由美かおる)はさっそく新人三木(草刈正雄)をスカウトするが、初のサンモリッツでの実戦投入で戦意を喪失してしまう。。。

■『エスパイ』をちゃんとと観るのも随分久しぶりだなあ。しかもHDリマスターなので、画質は非常に精細でピカピカだ。おかげでイスタンブールの魔窟での由美かおるのエロいダンスシーンが冴え渡る。ホントに見事な撮影と照明で、こんなにキレイなシーンだったのかと感嘆した。名シーンと言って過言でないと思う。

■もともといろんな疑問が湧き出す映画で、そもそも1967年に東宝の企画ラインナップに登っている。ところが田中友幸はこうした昔温めた企画書を机の引き出しに温存する人で、『日本沈没』の大ヒットを受けて、東宝映像単体で映画化することを決意する。Wikipediaによれば、その後の脚本開発に紆余曲折があったらしく、もともとは掛札昌裕が準備稿を書いていたらしい。石井輝男との奇想天外エログロ映画で注目された人だが、このころなぜか東宝映像の企画開発に参画していた。『火焔人間』とか『透明人間対火焔人間』を福田純と準備していた流れがあり、『エスパイ』のお鉢が回ってきたものだろう。

■ところが田中友幸が『日本沈没』の大ヒットで鼻息が荒くなっている時期で、荒唐無稽にはしたくない、リアルに真面目にいきたい、という意向があり、テレポーテーションなんてありえないなどと言いはったらしい。そもそも東映東宝ではドラマツルギーが異なり、さすがに掛札氏もお手上げで、日活出身の中西隆三が加わり、最終的には小川英が登場してまとめ上げたという経緯だったらしい。当時の東宝映像のことだから、ひょっとすると永原秀一あたりにも声がかかっていたかもしれないよね。(この人脈は『惑星大戦争』『さよならジュピター』『ゴジラ』に繋がりますね。)

補足
こちらのHP「電脳小僧の特撮映画資料室」に掲載された貴重な情報によると、第一稿がすでに小川英、掛札昌裕福田純という並びなので、その前の準備稿を掛札昌裕が何稿か書いて、それに福田純が補筆していたけど、最終的な仕上げは小川英が行ったということかも。福田純は当時けっこう自作の脚本に加筆してますよね。
geolog.mydns.jp

■お話の肝は、新人エスパイ三木の成長と、田村&マリアのメロドラマとなっている。そこに三木の愛犬が超能力の源泉は愛であることを教えてくれるという仰天発想が付け加わる。三木はサンモリッツの凄絶な殺戮戦でトラウマを抱え、田村は電撃で超能力を喪失、マリアは催淫剤による裏切りで鬱屈するという、妙に湿り気の多い意気上がらない展開なのだ。東宝らしい派手な超能力スパイ・アクションを期待した観客ががっかりしてしまうのも無理はない気がする。このあたりが70年代テイストに染まっている気がするし、そもそも脚本家の嗜好かもしれない。

■田村とマリアの愛情を逆エスパイのウルロフが悪魔的な試練によって試すという趣向は悪くないし、中盤のメロドラマの設定も悪くはない。ただ、福田純がメロドラマの演出に慣れていないのが残念で、こうした趣向なら舛田利雄に任せたほうが良かったよね。日活ムードアクションの世界に近いからだ。それでも中盤のイスタンブールはよく撮れているし、藤岡弘のアクション場面は手慣れたもの。

■敵の逆エスパイの組織が描けていないのも大きな欠点で、子連れ狼東宝を儲けさせた若山富三郎を呼んできたのは凄いし、さすがに時代劇がかった大芝居は演技的には圧巻なのだが、その手下どもがまるでイケてない。せめて岸田森とか草野大悟とかの楽しい面々を揃えておけば若山御大も喜ぶだろうし、映画的にも引き締まるのに。ウルロフのアジトがなぜか洋館で、内部の意匠は『血を吸う』シリーズとそっくりになっている(流用?)のも謎だが、ウルロフが自分の出自をサクッと簡単に明かしてしまうあたりは掛札テイストじゃないかな。どうもこのあたりの怪奇ムードは田中文雄&掛札&福田純で準備していた『火焔人間』の影響が大じゃないかな。終幕あたりは掛札脚本の『火焔人間』そっくりだし、ウルロフが火炎に包まれるフィジカルエフェクトも、『火焔人間』そのものじゃないか。

■特撮シーンは少なめで、基本的に特撮スペクタクルを見せる映画ではない。それでもクライマックスの国際会議場の地震シーンはミニチュアも合成も秀逸でボリュームたっぷり。ラストの洋館大爆発は脚本の指定では怪奇ムードに崩れ落ちると書かれていたのに、オープンセットのナパーム爆発で特撮スタッフも唖然としたそうです。やっぱり当時の東宝映像スタッフの頭の中は『火焔人間』でいっぱいだったのだ。そんなにやりたかったんだね、あの幻の企画。。。

参考

東宝の『火焔人間』へのこだわりは異常で、ついに2000年に『クロスファイア』として実現してしまった。
maricozy.hatenablog.jp

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