五辨の椿 ★★★

五辨の椿
1964 スコープサイズ 162分
DVD
原作■山本周五郎 脚本■井手雅人
撮影■川又昂 美術■松山崇、梅田千代夫
照明■三浦礼 音楽■芥川也寸志
監督■野村芳太郎

■邦画の斜陽が叫ばれ始めた時代、昭和39年に松竹が製作した大作3時間映画『香華』に続く第二弾として公開された2部構成の時代劇大作。かなり昔にビデオで観たはずだが、あまり覚えておらず、ほとんど初見の印象。正直なところ、かなり冗長であまり感心しない。

■美術セットは贅沢だけど大映東映のような様式美が感じられず、特に照明は良くないと思うし、岩下志麻の演技も全体に硬くて、まあこれはもともとの演技的資質がそうなのでいかんともしがたいが、あまり褒められたものではない。演技も映像も時代劇的な情趣が全く感じられないので、観ていて落ち着かない。

■男を二人刺し殺して回想シーンで父親との想い出を語り、母を焼き殺すまでが第一部、第二部は、加藤剛の与力が登場して捜査の網が彼女を追い詰め、ヒロインは実の父に巡り合う。ひとつひとつのシーンを丁寧に描こうとする意図、役者が気持ちよく演じるのを重視して、あまり演技を抑制しない方針はわかるのだが、そのせいで随分テンポが悪く、全体に冗長。この冗長さは一般的に3時間映画にありがちな傾向でもあるのだが、木下恵介の『香華』なんかは年代記ものでまったく退屈させないのと比べると、いかにも劣って見える。

■ほんとのところ、大映東映でお馴染みの役者陣と新劇俳優を配して映画化した方がよかったと思うよ。あるいは黒澤明くらいが撮れば、もっと凄い映画になっただろう。どの場合も問題は配役ですけどね。

© 1998-2024 まり☆こうじ