基本情報
スパイの妻 ★★★☆
2020 ヴィスタサイズ 115分 @NHKBS
作:濱口竜介、野原位、黒沢清 撮影:佐々木達之介 照明:木村中哉 美術:音楽:長岡亮介 VFXプロデューサー:浅野秀二 演出:黒沢清
感想
■第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した有名作を、いまさら見ました。録画していいたのに、何年寝かせていたのだろう?
■1940年の神戸、北満で関東軍のある暴挙を目撃した貿易会社社長は、突如おれはコスモポリタンだ!と主張して、軍の秘密を国際社会に暴露すると言い出すので、妻は困惑する。。。
■という話ですね。いやあ、脚本がシンプルによくできているので、感心しましたよ。やられたわ!(何を?)て感じです。時代物だけど映画撮影所は使っていないのは、なんと大河ドラマ『いだてん』のオープンを流用したから。『いだてん』の副産物だったのね。『いだてん』の投資を回収しつつ、8K映像の実験作を作るという、なかなかやり手の企画。しかも、出来が良い。
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■731部隊の悪魔の所業がモチーフになっていて、呪われた記録フィルムも登場すれば、憲兵隊のえげつない拷問もあり、ヒロインは精神病院に入れられるという、お約束のワクワクする道具立てを盛りだくさんで、高橋洋が書けば、もっとどす黒いノワールになったろうが、本作はあくまで夫婦の物語になっていて、黒沢清お得意の夫婦ものに属する。そして、黒沢清の夫婦ものは傑作が多い。
■その意味では『散歩する侵略者』にも似ている。妻が最終的に精神的な異変を経験して、入院しているという状況もそのまま同じだ。そして、そこには『マタンゴ』の記憶が共鳴している気がするけど、どうかなあ。
■黒沢清初の時代物という括りで、戦時中のドラマはすでに時代劇の範疇らしい。しかも黒沢清なので、いろんなところがリアリズムではなくて、美術も衣装も、かなり作為的に虚構の意匠を纏っている。それは憲兵隊の舞台空間にも顕著で、どこで見つけてきたのか、階段と部屋が一体化した変な空間構成を設えているし、憲兵たちも、無駄にたくさん並んでいる(舞台装置の一部なのだ)。リアリティ狙いではないわけ。そもそもお話の本筋がかなり意図的に空想的かつ政治的で、その審級に合わせてものかもしれない。高橋一生の行動原理に関しては、ちょっと虚を突かれました。そんな人間、あまり見たことないし、実在したかどうかも不明。
■NHKの名キャメラマンといわれる佐々木達之介が撮影したが、全体にコントラスト弱めで、陰影も十分でないのは、何か技術的な事情か、狙いがあったのだろうか。映画館で観れば、違うのかもしれない。8Kを通常放送で観ているから?正直、特に優れた撮影とは思えないけど、黒沢清の映画って、意外とキャメラマンによってニュアンスとかタッチが変化する。昔の喜久村徳章だったら、映像の画角やタッチが大幅に異なっただろう。そして本作のばあい、NHKの技術スタッフとのコラボで、新しい風が吹いたと思う。
■蒼井優はもうじきNETFLIXで『ガス人間』が配信されると思うけど、旦那の山里くんは舞台版の『ガス人間第一号』に出ていて、なんとなく東宝特撮、特に変身人間ものには縁があると勝手に思っていて、本作もそのイメージがある。精神病院のシーンはどうしても『マタンゴ』だし。狂笑しながら変な格好でぶっ倒れるという、下手すると目も当てられない難儀な見せ場が、微妙なニュアンスで成立するのも、まあ蒼井優の才能と黒沢清の変なセンスのたまものでしょう。
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