不知火検校
1960 スコープサイズ 91分
BS2録画
原作■宇野信夫 脚本■犬塚稔
撮影■相坂操一 照明■中岡源権
美術■太田誠一 音楽■斎藤一郎
監督■森一生
■大映京都出身の映画照明、特に時代劇の照明では現役最古参で名人であった中岡源権追悼のため、「不知火検校」を観た。3月8日に逝去していたことは、以下の記事で知った。
朝日新聞6月2日の記事「映画照明技師の中岡源権さん死去 担当映画は110本超」
中岡 源権さん(なかおか・げんごん=映画照明技師)が3月8日、胸部大動脈瘤(りゅう)破裂で死去、80歳。葬儀は近親者で営まれた。喪主は妻孝子さん。
大映京都撮影所や映像京都に所属。「朱雀門」(森一生監督)や「利休」(勅使河原宏監督)のほか、勝新太郎主演の座頭市シリーズなど110本を超す映画で照明を担当。03年に「たそがれ清兵衛」(山田洋次監督)で、日本アカデミー賞最優秀照明賞を受賞した。
■大映の倒産後は映像京都に所属し、数々のテレビ時代劇の傑作に参加したが、その照明技術のあり方を知るためにはやはり映画を観なければならない。本作「不知火検校」でも、夜の室内の場面での闇の作り方、建具の艶の出し方、光源(行灯や蝋燭)の移動による光と影の自然な、そして美的な移動の様子(光の入る前から絵になっているし、光が入りきるととまた絵になっている)など、ドラマ的な見せ場というよりも、台詞も無い芝居の前の時間が、照明技術の見せ場とばかりに設定されているあたりが、大映京都だし、森一生の演出だ。
■NHKもよく放映したものだと思うが、”めくら”と口にする台詞が悉く消去されるのは異様だ。”めくら”という差別的な物言いに対する反抗がこの主人公の行動原理の大きな部分を占めているのだから、消してしまうと、特に若い観客には何のことか単純に理解できないだろう。たぶん、若者のうちには”めくら”という言葉自体理解できない者が生じているに違いないのだが。
■ただ、差別に対する反抗よりも、この主人公の行動原理には、貧困からの脱出というテーマの方が大きく、そのことは少年時代のエピソードで強調されている。その目的のためには手段を選ばず、殺人も厭わないという姿は、戦後台頭したアプレゲールに対する旧世代の恐怖心を吐露するものかもしれない。
■本作はラストシーンが有名なのだが、脚本に存在した主人公の台詞がカットされ、ただ「馬鹿野郎!」と誰に言うとも無く罵倒するという演出に変更されている。この改変は、しかし案外悪くないのかもしれない。彼が何者を呪っているのか、そこに多義性と曖昧さを残した演出は、森一生らしいとも言える。