『悪党』

基本情報

悪党
1965/CS
(2004/9/23 レンタルDVD)
原作/谷崎潤一郎 脚本/新藤兼人
撮影/黒田清己 照明/岡本健一
美術/丸茂孝 音楽/林 光
監督/新藤兼人

感想(旧HPより転載)

 南北朝の時代、足利尊氏の執事として権勢を恣にしていた高師直小沢栄太郎)は侍従(乙羽信子)から聞かされた塩冶判官(木村功)の妻顔世御前(岸田今日子)の美しさに恋焦がれ、吉田兼好宇野重吉)の知恵を借りて文を送るが、邪恋をたしなめられてしまう。何とかして一目逢いたい一心で、判官に出陣を命じ、その隙に顔世を略取しようとするが、判官を慕う顔世は判官の後を追うことを決心する。だが、これを判官に謀反の企みありとみた高師直は、判官征伐と顔世奪取を命じて追っ手を放つ・・・

 近代映画協会と東京映画が提携した娯楽時代劇で、大映京都の名照明技師である岡本健一を迎えて、低予算ながらロケーションを駆使して堂々たるコスチューム・プレイを作り上げている。実際のところ、この脚本ならそのまま大映あたりで映画化できそうな娯楽作である。建物の中の場面でも、ロケセットなので背景の情景がリアルで立体的な空間となっているあたりは、東映大映のステージ撮影の時代劇では、あまりお目にかかれない趣向だ。

 東夷と自称する高師直の下卑た人間性小沢栄太郎が好演し、権力者の無邪気ともみえる思惑が塩冶一族を滅ぼし、顔世の命運をも玩ぶことになる残酷な事件の顛末を余裕を持って演じきる。一方、権力者に媚び諂うことでしか生き残れなかった哀れな女の代表として乙羽信子が無残な変貌をとげてゆくプロセスを演じて設け役。しかしなんと言っても顔世役の岸田今日子の配役が絶妙で、その意味が明らかとなるラストシーンは、名シーンといって間違いない。岸田今日子ファンならずとも必見といえる極上の恐怖シーンである。岸田今日子の**の怖さといったら、「悪魔くん」のマネキン妖怪を凌駕している。

 あまり知られていないことだが、実は怪奇時代劇の佳作なのである。

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