刺青 ★★★

刺青
1966 スコープサイズ 86分
祇園会館
原作■谷崎潤一郎 脚本■新藤兼人
撮影■宮川一夫 照明■中岡源権
美術■西岡善信 音楽■鏑木 創
監督■増村保造

 映画の内容については、当劇場の過去の記事を参照のこと。

 今回はフィルムの状態と、映像のクオリティについて補足しておきたい。この映画はこれまでビデオ、16㎜、衛星放送で3回見ているのだが、劇場で35㎜の上映を観たのは今回が初めてだ。そこで気づいたのが、映像の明るさだ。今回の上映用プリントはかなり状態が良いらしく、ほとんど褪色は感じられなかったし、ほぼ完全に近い上映だったと推測される。

 物語の中盤で、長谷川明男が木村元を返り討ちにしてしまう闇夜の沼部のシーンは、これまでの映像では、かなり漆黒に近い、ライトの存在を感じさせないギリギリの暗さを狙った宮川一夫らしい挑戦的な画作りに感嘆していたのだが、今回のプリントでは、確かに人物自体には照明を当てていないので、黒く潰れたシルエットの状態になっているが、背景の沼の情景には薄っすらと青白い光が満ちていて、思いのほか明るいのだ。それが逆にシルエットをくっきりと浮かび上がらせている。つまり、大映京都の映像設計では、どんなに暗い場面でも、輪郭だけはタッチライトで光らせたり、シルエットとしてはっきりと視認できるように作りこむのがセオリーなのだ。

 この場面、実は雨も降っているのだが、雨音は意図的にオフ気味に抑えられ、男たちの喘ぎ声が強調されて、雨の存在感はかき消されて人間の営みそのものに注意が集中するよう誘導されているあたりは、増村らしい。

 ただ、情景としての殺しの凄惨さを高湿度に描き出した点では、「怪談累が渕」の牧浦地志と中岡源権の仕事が絶品で、本作の殺し場を軽々と超えている。

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