母恋ひの記 ★★★☆

母恋ひの記
2008 ヴィスタサイズ ?分
NHK録画
原作■谷崎潤一郎 脚本■中島丈博
撮影■相馬和典 照明■中山鎮雄
美術■川口直次 音楽■窪田 ミナ 挿入歌■リヒャルト・シュトラウス「四つの最後の歌」
演出■黛りんたろう

江戸川乱歩の名作小説をネタにした映画「RAMPO」を監督して(今は昔に)世間にいらざる話題を振りまいた黛りんたろうが、乱歩同様に変態心理を極めた谷崎潤一郎に挑むNHKの意欲作だが、劇団ひとりの意外な熱演もあって、意外や意外な佳作ドラマに仕上がっている。見逃した人たちは臍をかんで悔しがるがいい。
■どころか、実相寺昭雄ファンが泣いて喜ぶ演出趣向が随所に仕掛けられ、白塗りの本田博太郎岸田森の生まれ変わりにしか見えないのだ。平安朝を時代劇にリヒャルト・シュトラウスの楽曲を取り入れた演出がもろに実相寺調で、時の左大臣藤原時平長塚京三)に追従し、策謀を弄する藤原管根を演じるのが本田博太郎で、不気味な白塗りで、権力者の影に隠れて策謀する小悪党を嬉々として演じている。この呼吸は実相寺と岸田森のコンビそのもの。
NHKの特番ドラマらしく配役が妙に豪華で、大滝秀治が準主役で矍鑠とした佇まいを見せるし、藤原滋幹の異父兄弟の藤原敦忠を演じるのが川久保拓司で、いかにも血筋の良い貴族らしい雰囲気を醸し出して、貴族ながら門地が低い劇団ひとりの、大人になりきれない風情の男の姿と好対照をなしている。滋幹の妻となる右近を内山理名が演じて、これが絶品。美人ながら一筋縄ではいかない曲者で、性根の曲がった狐狸の類に見える油断のならない女を見事に演じる。と同時に配役の妙を見せる。
■しかし、なんといってもドラマの渦中にあるのは、いくつになっても不思議な色香を発散する黒木瞳の存在感であって、それが全ての人々の迷いと煩悩と幻想の源になっている。その名を”母”という、本質であり同時に幻である、何ものかの謂いである。

少将滋幹の母 (新潮文庫)

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