感想(旧HPより転載)
それぞれの生活苦を抱え、最期の希望を託して生命保険の外交員として採用されたが、ノルマを果たせずこのままでは半年の試用期間のあと、正社員になれないことが決定的となった男女五人(乙羽信子、浜村純、菅井一郎、殿山泰司、高杉早苗)は、現金を積んだ郵便配送車を襲撃する計画を思いつく。じりじりと直射日光が照りつける海辺の道で計画通り襲撃に成功した五人組は、手にした現金でそれぞれの人生に区切りをつけてゆくが・・・
近代映画協会制作の新藤兼人脚本・監督の犯罪サスペンス映画だが、昭和30年当時の日本の貧困を念入りに描いたという意味で社会派映画と呼ばれる映画でもある。犯行直前の場面とその後の逮捕された乙羽の姿を提示したあとで時制が戻り、五人組が出遭うところから順次ドラマが提示される構成が効果的で、微かな希望を残しつつも厳しい結末を迎えるまでが、執念深く乾いた筆致で表現され、日本的なハードボイルドの香りさえする。
障害児を抱える乙羽を筆頭にそれぞれが貧困に喘ぎ、事態の解決の目処がないまま、人生の行き止まりに直面している様子が前半の1時間で入念に描き出され、中盤の郵便配送車の到着にいたるサスペンスが真夏の山と海の向かい合う巧みなロケーションによって増幅され、怖いほどの心理的リアルさを形作っている。伊藤武夫の細密なモノクロ撮影の効果も絶大で、新藤兼人の演出は予想以上に健闘している。
新劇俳優総出演状態のオールスターキャストで、宇野重吉、小沢栄太郎、神田隆、三島雅夫、左朴全、菅井きん等々、錚々たる顔ぶれ。しかし、五人組の中でもっともハードな役を演じる浜村純がおそらく生涯の当たり役と呼ぶに相応しい名演を見せており、惚れ惚れするほどのカッコ良さ。作り事の様式的なカッコ良さではなく、役と一体化したリアルな人間像が圧倒的な人間臭さを放って、性格俳優の面目躍如といえる名演となっている。
モノクロ映像の画質も現在望める最高レベルのもので、全盛期の日本映画の奥深さを垣間見ることができるDVDとなっている。