『鬼の棲む館』

基本情報

鬼の棲む館
1969/CS
(2002/7/10 V)
原作/谷崎潤一郎 脚本/新藤兼人
撮影/宮川一夫 照明/中岡源権
美術/内藤 昭 音楽/伊福部 昭
監督/三隅研次

感想(旧HPより転載)

 戦乱打ち続く南北朝時代、都を嫌って山の廃寺に籠もって愛人愛染(新珠美千代)との退廃生活に耽る無明の太郎(勝新太郎)だが、彼を連れ戻しに都から妻(高峰秀子)がやってきて、歪んだ愛憎を内包した奇妙な共同生活が始まる。ところが、ある日訪れた旅の僧侶(佐藤慶)が不思議な法力で太郎を折伏してしまう。太郎の復讐を誓った愛染は、実はかつての愛人であった僧侶を色香で誘惑し籠絡しようとするが・・・

 谷崎潤一郎の戯曲「無明と愛染」の映画化で、78分という短尺なのは、三隅研次の特質というよりも、物語自体のシンプルさからきたものだ。
 4人それぞれが心に鬼を住まわす者達であることが、解き明かされてゆく一種の観念劇なのだが、宮川一夫キャメラも特に冴えたところがなく、そもそも三隅研次とはあまり相性が良くないコンビなので、むしろ当時の名コンビ牧浦地志と組んだほうが、映像表現としてはより先鋭的なものになったはずだと思われる。

 廃寺のオープンセットは大映末期のこの時期にしては破格のスケールなのだが、建物の周囲に生い生えるのどかな草木が抽象表現として完成に至っておらず、むしろ内田吐夢の「真剣勝負」での野中の一軒家の情景のほうが、大映京都風に見えるだろう。

 愛染に嫉妬の炎を燃やす妻を演じる高峰秀子はちょっと分が悪いが、愛染を豪快に演じきる新珠美千代は三隅研次の超絶技巧とあいまって壮絶な化け物と化して圧巻。吹き替えのヌードなども駆使して、多情な女を美貌の化け物として描き出す緩急自在のカッティングはさすがに三隅研次ならではの演出を堪能させてくれる。愛染はこの時期「怪談雪女郎」の藤村志保に比肩するキャラクターといえるだろう。この時期に三隅研次が怪談映画を撮らなかったことが、返す返すも残念でならない。

 ただ、次第に仏心に目覚めてゆく盗賊を演じる勝新太郎の演技は一本調子で、「いのち・ぼうにふろう」の演技に辿り着くためには名伯楽が必要であったことがうかがわれる。

 また、僧侶の法力をオプチカル合成で表現してしまった部分には無理があるように思われ、あくまで内面に罪悪感を宿していた人間の主観的描写として表現したほうが、観客には納得しやすいのではないかと思うのだが。

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