『人間』

基本情報

人間
1962/CS
(2004/10/1 レンタルDVD)
原作/野上弥生子 脚本/新藤兼人
撮影/黒田清巳 照明/内藤伊三郎
美術/新藤兼人 音楽/林 光
監督/新藤兼人

感想(旧HPより転載)

 小さな荷役船海神丸で出航した4人(殿山泰司乙羽信子佐藤慶山本圭)は嵐に遭遇し、沖合いへ流されてしまう。水の不足は雨で解消されたが、食料が底をつき、4人は2つのグループに分裂してしまう。さらに飢餓の進んだ2人(乙羽と佐藤)は若者を喰うために殺害するが・・・

 極限状態の中でも生にしがみつき狂気に走る人間達の姿を独特の諧謔味を交えて描き出す新藤兼人の意欲作。強烈で残酷なサスペンスとして描くこともできる素材だが、あくまで扇情的な部分は控えめで、人間の愚かさとしぶとさに賞賛の視線を注いでいるあたりが新藤兼人の映画人生のしぶとさとダブって感じられる。

 こうした役を乙羽信子に演じさせるのは一般観客の立場からいえばミスキャストという気がするのだが、金毘羅様のご利益を信じて正気に留まる船長を演じる殿山泰司は素晴らしくリアルな人間味を発揮しているし、野人のように逞しい佐藤慶の快楽原則に沿った生への執着ぶりも迫力満点で凄い。この佐藤慶と「四谷怪談・お岩の亡霊」の佐藤慶は同一人物に見えないぞ。

 そして、そんな濃いみんなの食欲の犠牲となるのが若さ漲る山本圭というのが実にこの映画のツボで、山本圭の役者人生の方向性をある意味で決定付けているような気がする。

 さらに、殿山泰司が回想する戦場で死者を喰う男が浜村純というのもファンには堪らない配役。

 というように、何かとツボの多い作品で、ラストの倫理的な決着が因果物語のように見えるところも悪くなのだが、「悪党」などに比べると今ひとつ頭抜けたところがない。 

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