感想(旧ブログより転載)
昭和28年に高峰秀子主演で豊田四郎が演出した傑作「雁」のリメイクだが、絶頂期の若尾文子が存在感においては高峰秀子に迫り、池広一夫らしいメリハリの利いた演出で文芸作品というより、通俗作品として実に面白すぎる映画になっている。そういえば、導入部分のナレーションは高峰秀子ではないだろうか。
貧しさゆえに高利貸しの男(小沢栄太郎)の妾として生きる明治の女(若尾文子)が、知合った東大生(山本学)に想いを寄せるが、ドイツ留学に旅立ってしまい、一人取り残されるという物語を、どちらも成沢昌茂が脚本化しているが。同一の脚本だったのかどうかは未確認。
前作はなんと言っても主人公の居宅付近のセット美術と三浦光雄の絶妙なキャメラが素晴らしく、モノクロ映画の精緻さのきわみだったが、今回は予算的にも苦しいなかを、シネスコ画面を生かした演出と画面構成が見所だろう。美術装置の質感では前作に敵わないし、宗川信夫のキャメラも三浦光雄の敵ではないのは仕方ないが、映画としては十分に堪能できる心理劇となっている。
家の前の坂で旦那の本妻(山岡久乃怪演!)とすれ違う場面の緊迫感など、池広一夫がメリハリを利かせすぎて、ほとんどホラー映画の文法として圧巻だし、高利貸しに搾取される子連れの女に面罵される場面の生々しさも、扇情的な劇伴で煽った演出が劇的な昂揚感を呼び覚ます。
一方、ドイツに旅立つ大学生を密かに見送った主人公が、何事かを胸に決め、あるいは諦念の中に自宅へたどり着くラストなどは、じっくりと長廻しで見せて、昨今の映画ではお目にかかれない深い余韻を残す。この場面では池野成の音楽の効果も絶大で、全体的に硬軟自在でありながら、独特のざらついた重低音を響かせるダークな曲想が心理劇を実に巧く際立たせている。
若尾文子は主に増村保造とのコンビ作がソフト化されているが、こうした小品も是非DVD化してほしいものだ。今回のプリントは傷も多く、褪色も明らかなので、博物館の所蔵プリントではなかったようだ。是非、まっさらな綺麗なプリントで見てみたいものだ。
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