『北京原人の逆襲』

北京原人の逆襲
1978/CS
(2004/5/16 輸入DVD)

感想(旧HPより転載)

 大分以前にテレビ放送で1度見ただけだった作品だが、タランティーノが主宰するローリング・サンダーレーベルのDVDとして、ピカピカの新作と見まがうばかりの高画質でソフト化されていると聞いて、さっそく取り寄せて鑑賞。改めて観ると、その昔テレビで観た以上の感慨を呼び覚ます傑作であった。

 もともと黒田義之が特撮を担当していたが、撮影が延びてビザの更新の関係もあり、有川貞昌に交代した経緯があったらしい。特殊撮影のメインスタッフはおそらく東宝映像が担当しており、特殊造形はツェニーが担当。川北紘一も助監督として参加し、エキストラとして出演もしている。

 なんといっても冒頭からラストまで大盤振る舞いのミニチュア・ワークが、この時期の日本の特撮映画の状況から考えると、桁外れに豪勢で、その精度も東宝特撮の全盛期を彷彿させる凝りよう。香港の夜景を彩るネオンの造形も、東宝特撮以上のリアルさを実現している。

 ヒマラヤの小村を襲う地震の場面から香港市街での大破壊まで、痒いところに手が届く緻密なカット割で表現されており、多用されるスクリーン・プロセスが稚拙であったり、固定マスク合成も日本のレベルから見ると一時代前のレベルであったりするのが残念だが、合成カットを多用して本編のドラマと特撮場面を密接に結びつける有川貞昌の演出スタイルはここでも健在である。しかも、東宝特撮の意地を見せつける破壊につぐ破壊のオンパレードで、ミニチュア撮影とともに、実物大で作製された北京原人の手や足のモデルが効果的に挿入されている。北京原人がよじ登る高層ビルの壁面が細かく崩れ落ちる描写や、砲弾の流れ弾が背後のビルに着弾する表現など、まさに「サンダ対ガイラ」の再現といえるだろう。ミニチュア演出では、こうしたきめ細かい表現の積み重ねが命なのだ。

 一方で香港映画らしい荒っぽい編集が特撮の味を十分に表現しきれていない憾みもあるのだが、それを補って余りあるのが見世物に徹した演出姿勢で、ビキニ姿で観客を悩殺する女ターザンやヒマラヤの奥地での象や豹と戯れる楽園の表現、ラブシーンに延々と流れる甘美な主題歌、卑怯で好色な悪漢等々、通俗的な見せ場を何の衒いも無く、次々と繰り出しつつ、全編に流れる感情のリズムだけは制御し続ける監督の手腕は生半ではない。

 実際、クライマックスの高層ビル爆破のサスペンスや非情な軍隊の描写、ヒーローと女ターザン、そして北京原人三者のぎりぎりの選択をとおして各人の心理を浮き彫りにする段取りの見事さなど、単なるバカ映画の範疇を軽く超えて、女ターザンと北京原人を呑み込む悲劇の深さを訴えかける。

 日本で怪獣映画の歴史が途絶えていた時代、怪獣映画の元祖である「キング・コング」そして「猿人ジョー・ヤング」の精神を最もよく継承しつつ、円谷特撮の正当な後継者でもある作品が、日本と香港の映画人によって生み出されていた小さな奇跡に妙な感動を覚えないではいられない。

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