雪の喪章
1967 スコープサイズ 95分
日本映画専門チャンネル
原作■水芦光子 脚本■八住利雄 撮影■小林節夫 照明■伊藤貞夫 美術■下河原友雄 音楽■池野成 監督■三隅研次
■金沢の金箔商の名家が戦争を挟んで没落してゆく姿を、三隅研次ならではの苛烈な美意識で描き出した異様な文芸映画。とにかく大雪が降るたびに若尾文子を取り巻く人々が次々と命を落としてゆくという、ほとの怪奇劇に近い異様な世界観。そして、いつもの大映京都ではなく、大映東京の増村組のスタッフの中で撮りあげる中で、逆に先鋭化した三隅演出の凄絶美が冴える。
■とにかく若尾文子の美しさはただ事でなく、妖気が感じられるほど。対する福田豊土がまたいい味になっており、優柔不断ぶりが板についている。何かといえば中村玉緒に乗っかってしまう下の緩いボンボンを演じて男の業を感じさせる。受ける中村玉緒もホントに上手いから演技のアンサンブルを見るだけでため息が出る巣晴らしさ。若尾文子とつかずはなれずの関係を結ぶ天知茂も、キャリアのベストともいえる名演を見せる。ほんとにいい役者だな。後年はテレビばかりになってしまうのが惜しいけど。
■大映としてはそれほどの大作ではないはずだが、それでも金沢の旧家の美術装置などうっとりするほどの作りこみ。たぶんフジフィルムで撮影しているらしく、若尾文子らの顔色がいつもの大映京都より淡彩で、綺麗に白っぽいのも見所。小林節雄の名撮影。とにかく配役と舞台装置の質感の高さを眺めているだけで、うっとりしてため息が出る。なんて贅沢な映画だろう。