『フロム・ビヨンド』

基本情報

フロム・ビヨンド
(FROM BEYOND)
1987 スタンダードサイズ(トリミング版)
(98/12/29 V)

感想(旧HPより転載)

 人間の松果腺を刺激して第六感の働きを解放する共振器を発明したプレトリアス教授は時空の”彼方”から現れた怪物に頭部を食いちぎられて殺される。事件の真相を究明するため、精神病院に収容された目撃者で、プレトリアス教授の助手(ジェフリー・コムズ)と、精神科医バーバラ・クランプトン)が実験を再現するが、”彼方”の怪物と同化したプレトリアス教授が性的不能を代償するため邪悪な性感の虜となって出現する。共振器によって松果腺の発達した女医はSMの妄想に囚われ、助手の眉間からは第三の眼が発生し、人間の脳を喰う怪物と化しつつあった。

 人間の脳の旧い器官に眠る未知の機能を刺激することで第六感とよばれる特殊能力を解明しようとした科学者達が、我々の生きる時空と異なる次元に同時に存在する怪物を垣間見る。

 そうしたラブクラフト原作のSF的な設定を性的な寓話に顴骨脱退して、極めて古典的な怪奇映画として再構成したところに、脚本のデニス・パオリと監督スチュアート・ゴードンの極めてユニークな姿勢が現れている。第三の眼によって感知される世界が人間の存在にとってどんな意味を持つのかという点を突き詰めてゆけばさらに高度なSFにもなりうる素材だが、あくまで性的な妄想について絞り込んだ構想は、しかしフロイティズムに多くを負っている怪奇映画というジャンルとしては極めて真っ当な方針だろう。

 ”彼方”に何があるのか、”彼方”とは何なのかということよりも、”彼方”との接触で人間がどのような影響を受け、どう変化するのかという点に、怪奇映画の興味は向けられる。人間にとっての恐怖とは「人間が望ましからざるものに変わってしまうこと」につきるからだろう。その意味で、この映画のバーバラ・クランプトンが辿る運命こそ、”彼方”のもたらす恐怖そのものといえる。

 ラブクラフト物映画の弱点である、怪物がちらりと姿を現した途端物語が終焉を迎えてしまうという点にも,見事な解決が編み出されており、屋敷の屋根裏部屋の実験室にグロテスクな怪物が跳梁跋扈する。そのものズバリの怪物が安易に登場してしまうにもかかわらず、同様の素材で怪物は現れない「イベント・ホライゾン」よりもよほど怪奇映画らしいという逆説はどういうわけだろう?

 しかも、肉感的な美形バーバラ・クランプトンは惜しげもなくグラマラスな肢体にSMの衣装をまとって、瀕死のジェフリー・コムズに馬乗りになる。これは、たまらんです。

 しかし、そうした旺盛な観客サービスにも関わらず、怪奇映画の精神を失わず、奔放なイマジネーションの氾濫をサスペンス豊かに物語る舵取りの確かさには、感心する。

 ただ、キャメラワークにもう少し怪奇映画らしい陰影が欲しいところで、技術的な貧弱さは覆いがたい。同じラブクラフト原作でも「DIE MONSTER DIE!」ほどの美術装置は無理にしても、せめてもう少し本格的なライティングがあれば、物語のサスペンスはより深みを帯びたことだろう。

 ラストクレジットによれば制作会社のエンパイアピクチャーズは制作費の安いイタリアにスタジオを構えているようで、この映画もイタリアで撮影されたようだ。どうりで「ペンデュラム」のような企画が成立するわけだ。

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