『ペンデュラム/悪魔のふりこ』

基本情報

ペンデュラム/悪魔のふりこ
(THE PIT AND THE PENDULUM)
1991
スタンダードサイズ(トリミング版)
(98/12/26 V)

感想(旧HPより転載)

 1492年、ローマ教皇の拷問禁止命令も無視して、スペインを魔女狩りの恐怖で統治する大審問官トルケマダ(ランス・ヘンリクセン)がマリア(ローナ・デ・リッチ)という娘に心惹かれたことから破滅する物語を、イタリアの古城をロケセットとして使用し、おそらくチネチッタ撮影所の史劇等で使用された古衣装を流用してスチュアート・ゴードン監督が撮りあげた正統派ホラー映画。

 なにしろ、エドガー・アラン・ポー原作のロジャー・コーマン監督作品「恐怖の振子」のリメイクである。もちろんロジャー・コーマン版のように低予算ながら凝った美術装置など望むべくもないが、「キャッスル・フリーク」などホラー映画を撮ると何故か冴えるスチュアート・ゴードン監督の手腕が発揮されたなかなかの力作。今時、こんな正統派のゴシック・ホラーはめったにお目にかかれない。コッポラの「ドラキュラ」なんて足元にも及ばない。

 禿頭のランス・ヘンリクセンが絶妙な腺病質演技で恐怖世界を支配し、ローナ・デ・リッチの単純明快に均整の取れた裸体が恐怖時代の闇のなかに妖しく秩序の光を放つ。

 棺から遺体を取りだして子孫の前で鞭打ち、その骨片をすりつぶして砂時計ならぬ骨時計(!)とする非道なオープニングからし石井輝男に匹敵するものがある。当然クライマックスではその骨時計から遺体が復活し、大審問官を呪うことになる。

 陥穽と振子だけでなく、生き埋葬の趣向まで律儀に取り入れているあたり、スチュアート・ゴードンロジャー・コーマンへの傾倒ぶりのは恐れ入る。今時のホラー映画監督でゾンビでもサイコ殺人鬼でもなく、ロジャー・コーマンの諸作を基準として創作をする反時代精神には、敬意を表したいほどだ。

 しかし、物語上にはかなり新しい解釈(?)があり、トルケマダに舌を切られたマリアは捕らえられていた本当の魔女によって秘められた魔女の資質を開発されて、その超能力によって大審問官を追いつめることになるのだ。魔女狩りが、形式上のレッテルとしての魔女ではなく、真の魔女を生み出し、それゆえに宗教の権威が崩壊するというあたりに、怪奇な道具立てとは裏腹にあくまで現実原則によって構成されていたロジャー・コーマン版と異なりダークファンタジーとしてのアプローチが試みられている。


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