LOFT ★★

LOFT
2006 ヴィスタサイズ 101分
京都シネマ
脚本■黒沢清
撮影■芦澤明子 照明■長田達也
美術■松本知恵 音楽■ゲイリー芦屋
VFXスーパーバイザー■浅野秀二
監督■黒沢清


 「その女は永遠の美を求めてミイラとなった。千年の後、彼女は目覚め、そして私に呪いをかけた。恐るべき永遠の愛という呪いを。」

 という字幕が冒頭に出ることからも察せられるとおり、なんとも形容不能な奇妙な怪奇映画で、好きな言葉ではないが、トンデモ映画とはこういう映画のことを指すのであろう。「降霊」も怪奇映画としてはかなりギリギリのラインに踏みとどまった佳作だったが、今作は完全に一線を踏み越えており、Vシネマで撮っていたアクション映画が時々けったいなコメディ色を帯びていたのと同様に、怪奇映画でありながら、コメディと呼ぶしかない関節の外れた映画である。なぜか舛田利雄の「愛・旅立ち」を思い出してしまったが、幻覚を見ていたのだろうか。

 ミイラ×幽霊×サイコという「三大怪獣 地球最大の決戦」並みの怪奇オールスター映画だが、全体を豊悦と中谷美紀の恋愛映画として無理やり包括しようとするものだから、怪奇コメディと呼ぶしかない珍妙な場面が続出する。そして、それは、黒沢清の誤算というよりも、いや確実にその部分もあるはずだが、かなりが計算ずくのように見える。逆に、笑いを堪えて観る観客のほうに不自由さが強いられる。これは素直に爆笑しつつ観られるのが正しい怪奇コメディメロドラマ(?)なのだ。きっと黒沢清は新しいジャンルを発明したのだろう。

 しかし、「すまんがミイラを預かってくれ」と中谷美紀を訪ねる豊悦はイカしているし、蘇って動き出したミイラに「動けるなら最初から動け」と説教する豊悦はサイコーにトンチンカンで、さすがは田所博士役者だ。中谷美紀は「嫌われ松子」と打って変わって自然体の演技だが、黒沢清に心理描写を封じられてまるでコメディのようにバタバタと逃げ回る姿が少女のように可愛い。それでいいのかは疑問だが。

 一方、期待通りのサイコ野郎を好演してくれるのが西島秀俊で、いつもながらの人非人を飄々と演じて、この映画でいちばんの説得力を見せる。
 なぜかネット上で早くから動画が公開されていたラスト場面は「めまい」そのものだし、多分ここも本来はパロディ映画としての笑いを期待した場面なのだろう。豊悦と中谷美紀で変格恋愛映画として売ろうという製作者の意図は無理からぬものがあるが、素直に怪奇コメディとして売った方が観客に対して誠実だと思うぞ。

 まあ、この次に撮った中編「蟲たちの家」が黒沢清らしい佳作だったので、一時的な気の迷いとして笑い流しておくことにしよう。なぜか黒沢清は結婚以前の恋愛劇は決定的にタガが外れてしまうのだが、夫婦を撮ると妙に巧いのだ。

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