氾濫 ★★★

氾濫
1959 スコープサイズ 97分
DVD
原作■伊藤整 脚本■白坂依志夫
撮影■村井博 照明■米山勇
美術■渡辺竹三郎 音楽■塚原哲夫 特殊撮影■築地米三郎
監督■増村保造

■金属を接着する接着剤を発明して化学会社の重役になった化学者とその一家が経験する悲喜劇をエネルギッシュに描くなかなかの快作。『巨人と玩具』のような構築の大きさは無いが、化学会社と国立大学の研究室の癒着ぶりとか国立大学教授のでたらめさといった非常に珍しい素材を扱っているので、それだけでも価値がある映画。

若尾文子はあくまで助演で、主演は佐分利信。しかし実質的な主役は成り上がろうと必死の貧乏助手の方だろう。これを演じる川崎敬三が持ち前の無責任と不誠実を絵に描いたような若者を軽快に演じて生き生きしている。戦前と戦後の世代対比というこの時期の日本映画には多数見られる構図だし、他のエピソードも案外類型的なので、図式劇の誹りを免れないとは思うが、役者陣も楽しいし、映画に弾みがあるから文句を言う気も失せる。伊藤雄之助のお花の師匠は傑作。

官立大学の教授をいじましく演じる中村伸郎がいつもながらに素晴らしく、澄ました顔してもっともらしい嘘をつきながら愛人に貢ぐ金を工面しようと汲々とする様はほんとに哀しい。

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