■芸道ものの青春小説としては意外と薄口で、そこは物足りないところがあるけど、文楽の演目に登場する男や女たちの役の「性根」を掴むために、作品の解釈が始まり、作者の独自の視点が反映されるので、そこが読みどころと感じる。
■文楽の演目のあらすじはネットで検索すればさらっと出てくるけど、そこには登場人物の心理描写に関する探求はない。なので、あらすじだけ読んで、なんだかピンとこないとか、古くさいとか、不自然とか、作り話が過ぎるとか感じて終わってしまうことになる。
■でも、実際に文楽を観て、登場人物の心の動きを辿ると、実に普遍的な人間像が浮かび上がってきて、300年前と今と、人間のやることは変わらないものだと分かる。その、文楽の劇的部分についての解説になっていて、どこがどう感動的なのかということをわかりやすく描写する。役の「性根」を現代的に咀嚼する。単なる客観的な解説書では、劇的な勘所となる成分についてビビッドに描けないから、そこが本書の美点といえる。
■主人公の健が一目惚れする(文楽の登場人物はみな基本的に一目惚れで恋に落ちる)奔放なシングルマザーの語り口が、まさに文楽の女の口調そのもので、例えば以前に以下のような記事を書いたけど、直木賞作家の三浦しをんも同じように大阪女の口説を描いているから、やはり文楽の女の心根の強さを現代的に描くと、自然とヤンキー的になるのだな。なんでだろう?
maricozy.hatenablog.jp