ニッポンジン、キ・チ・ガ・イ・ノサル?放送法違反の大トリック!『東京湾炎上』

基本情報

東京湾炎上 ★★★
1975 スコープサイズ 100分 @アマプラ
原作:田中光二 脚本:大野靖子舛田利雄 撮影:西垣六郎 照明:美術:音楽:鏑木創 特技監督中野昭慶 監督:石田勝心

感想

■『人間革命』の大ヒットで東宝を潤して絶大な信頼を勝ち得た舛田利雄が監督する予定で、脚本も書き、配役にも旧日活の仲間たちを据えていたのに、土壇場で東宝助監督会から抗議があり監督が東宝の生え抜きに交代になった異色の社会派サスペンス映画。しかし、シージャック映画はコケるのがお約束で、後に『スピード2』も同様の過ちをおかした。同時期に公開された東映の『新幹線大爆破』の圧倒的なおもしろさとテーマ性にも完敗した。(もっともこちらも興行的にはコケたが。)まあ、そんな時代だったわけ。『タワーリング・インフェルノ』が大ヒットした頃のお話。

■一目瞭然のかなりの低予算映画で、基本的にロケセット主義。対策会議などもステージセットではなく、ロケセットで、たぶん砧撮影所か東宝本社の会議室だろう。助監督の川北紘一がアレンジした、湾岸エリア大爆発の豪快な合成カットも砧撮影所前で実写撮影が行われているという有り様。。。

藤岡弘がほとんど主役ではなく、タンカークルーの一員に過ぎない扱いなのも謎だ。その意味で、実質の主役はゲリラメンバー、資源公正分配推進組織POFFDOR(ポフドール)なのかもしれない。社会派の一面を持つ大野靖子がゴリゴリと第四世界の飢餓と貧困と文明社会への怨嗟を紡ぎ出す。先進国には福祉制度というものがあるらしいが、なぜ世界には福祉システムがないのか。文明国に貴重な資源を簒奪され、貧困の中に取り残されたアフリカの民衆の怨念をスクリーンにぶつける。そこだけは変に面白い。

■特に日本人に強烈な敵愾心を燃やすケン・サンダースの役柄が出色で、封切り時に映画館で観ていちばん記憶に残ったのは、この男のキャラクターだった。ケン・サンダースは60年代から日本映画で活躍してきたけど、ここまでアクの強い、臭いほどに濃い演技は初めてじゃないか。どんな心境の変化なのか興味深いが、「イキル?シヌ?ニッポンジン、ワタシ、ケイイ、ナイ!」の台詞まわしとか、「ニッポンジン、キチガイノサル」とか、極上の名台詞がふんだんに。改めて感心した。当時の子供達は、みんな散々モノマネしたよねえ。

■石田勝心はアクション場面の演出に不慣れで、もっとメリハリが効くはずなのに妙に平板だ。かと思えば妙にリアルな流血シーン(これも当時かなりリアルで斬新だった)とか、丹波哲郎の絶妙な無駄死に場面とか、オフビートな見せ場があって、気を許せない。

■テロリストが全員死亡したあとにタンカーに仕掛けられた爆弾を捜索する段取りも蛇足感たっぷりで、ちっともサスペンスが持続しないし、そもそも視界のきかない原油タンクに潜っても、まるで画にならないのだ!石田勝心はこのあたりの映画的な見栄えに関するセンスが、決定的に欠けている。でも、そもそも舛田利雄はどう撮るつもりだったのだろう?

■謎の主題歌とか、金沢碧の謎ヌードとか、やる気があるのかないのか判然としないし、配役は豪華なのにあまり生かされないし、残念要素については石油タンクが満載なのだった。

参考

ケン・サンダースって、けっこうナイーブな役を演じていたので、本作の極悪役は斬新だった。
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