ヘレン・オブ・トロイ ★★★

HELEN OF TROY
1956 スコープサイズ 121分
DVD

■ブラピ主演の『トロイ』はなかなかの秀作だったが、もちろん本作を参考としてにらみながら製作されているはず。本作は完全に単純なメロドラマとして脚色されており、その意味ではブラピ版のほうが人間関係は深く描かれていたように思う。本作はロバート・ワイズによるテキパキした展開が小気味良い美点はあるが、大作映画としての格調の追及はなく、その潔さは買えるものの、正直ドラマとしては物足りない。

■劇場公開時には延々5分くらいある序曲が巻頭におかれ、超大作映画構えであるが、ファーストカットの作画合成のマット画の雑さに気持ちは一気に萎れる。トロイ攻略のモブシーンもどこかの原野に人数だけそろえましたという投げやりぶりで、作画合成の精度の低さがB級感を積み増しする始末。カラーもテクニカラーではなく、ワーナーカラーという独自方式(イーストマンカラーらしい)で発色が地味だし、70ミリ撮影ではないから細密感も無く、いわゆる典型的な大味大作のルックである。これを観ると、後のサミュエル・ブロンストンの3時間映画群がどれだけ良くできていたかが分かる。

■トロイとスパルタのトップたちの政略や謀略、知略の面白さがもっと描きこまれていれば面白いのだが、パリスとヘレンの不倫劇がトロイの滅亡をもたらした悲劇性の構築が全く不足していて、脚本の弱さが露呈している。二人の心理描写にはそれなりに綾をつけようとはしているのだが、全く成功していない。

チネチッタ撮影所で制作されたゆえか、特撮はイタリア技術陣が担当しており、ジョセフ・ナサンソンという人がマット画を担当したらしい。特撮面での残念さはここに由来しているようだ。美術助手でケン・アダムも参加しており、ラオール・ウォルシュとかセルジオ・レオーネが助監督で参加したりと、スタッフはそれなりに豪華なものの、美術セットの質感も低いし、照明設計も甘いし、すべてが大味感で成立している。これも忘れられた映画だが、仕方ないと思われる。

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