クドカンの鬼作劇『あまちゃん』第二部:備忘録

■先日「あまちゃん」全話を観終わりました。まさか今更観ることになろうとは思いませんでしたが、予想以上に面白かったので良かったですよ。前回記事では第一部を紹介したので、第二部東京編と全編通しての感想を記録しておきましょう。

■第二部東京編は本当の東京編と後半の北三陸編に分かれます。なぜなら合同ライブの前日に東日本大震災が発生するからですね。大震災の発生を契機としてアキは北三陸に戻る決意をすることになります。

■とにかく東京編の怒涛の攻撃的な作劇が強烈で、アキ(能年玲奈)の母親春子(小泉今日子)と太巻(古田新太)と鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の秘密の三角関係とか、アイドル業界下剋上とか、1シーンだけ登場の前髪クネ男とか、踊りヤクザとか、まあ貪欲に小ネタを打ち込んでくるし、並行してユイ(橋本愛)には不幸が続くし、失踪したよしえ( 八木亜希子が、エロい)の出戻り劇だけ異様に重くてねっとりして暗いあたりとか、見どころ満載。ついに正体を表したものの相変わらず覇気のないミズタク(松田龍平)が時折見せる熱い闘志も萌えるところ。そういえば、音楽もテレビ版「探偵物語」のフレーズを踏襲してるんだね。

■アイドル残酷物語をしっかりとお金かけて作れるのがNHKの凄さで、GMT関連だけで配役も含めて厚い。そういえば北三陸編の震災後の情景もさすがはNHKですよ。軽々と平成ガメラレベルですからね。この東京編が本作の実質的なクライマックスで、春子が堂々と潮騒のメモリーを歌い上げ、上京のためユイが乗った汽車が大地震に翻弄されるあたり、鬼のように畳み掛ける見せ場の連続は圧巻。

■ただ、北三陸編はさすがに震災復興という大真面目な素材ゆえ、あまり弾けず、悪く言えば終戦処理的な作りになるのは仕方ないか。それでもあまカフェ復興、潮騒のメモリーズ再結成、鈴鹿ひろ美や太巻まで北三陸に結集して賑々しいコンサート開催とイベントは盛りだくさん。クライマックスは三人に歌い継がれる潮騒のメモリーになる。

■でもこのドラマで一番すごかったのは、母親春子の人物像と、それを演じる小泉今日子の、脚本の意図を超えたノリノリの熱演だろう。杉本哲太のやり過ぎ感は半笑いで凄いよねって話だけど、令和基準では毒親にしか見えない元ヤン春子をキワキワに、ではなく完全にオーバーヒート気味で演じるから、あれがキョンキョンの素だよねと誤解するむきも出そうなくらいリアル。怖いくらいの実在感。キョンキョンの心の中に春子は棲んでいるけど、さすがにそのままじゃなかろう。

■春子とアキの関係は「巨人の星」の父子に見えるのだけど、2013年にはまだこうした作劇が許されたという点も感慨深い。多分今はもうだめだろう。春子は完全にDVの毒親で、周囲の大人たちも笑って見ていられる状態ではないだろう。なんで周囲の人間たちは彼女のDVを止めないんだとNHKに苦情が入ること必定だ。よね?

■と思ったら、今のところそんな雰囲気もなく、普通に享受されているようなので、親が娘の頬を打つくらいはまだ許容範囲なんだ。と理解しましたが、私生活で試してみようとは思いません。

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