ほとんど『ゴジラ』と表裏一体の兄弟映画!『潮騒』

基本情報

潮騒 ★★★☆
1954年 スタンダードサイズ 96分
原作:三島由紀夫、脚本:中村真一郎谷口千吉、撮影:完倉泰一、照明:石川緑郎
美術:松山崇、音楽:黛敏郎、特殊技術:東宝技術部、監督:谷口千吉

感想

■恥ずかしながら山口百恵の『潮騒』も、もちろん堀ちえみの『潮騒』も、ましてや森谷司郎の『潮騒』も観たことがないので、人生初経験の『潮騒』です!
■いやあ、『潮騒』って面白いですね。三島由紀夫が原作なのでなんとなく敷居を高くしていたのだが、ホントにこんなに面白い小説なのかね。特に、シンジとハツエの逢引きを邪推する噂が島に蔓延して二人が引き裂かれる中盤からの通俗さは面白すぎですね。しかも、シンジは二人の仲を反対するハツエの頑固な父親の所有する大型船の船員として迎えられ、舞台は遂に島を出て、颱風の強風逆巻く大海原に!そして暴風雨が船を襲い、東宝特殊技術部名物のミニチュア特撮が炸裂する。
■たぶん他の『潮騒』ではこんなスペクタクルシーンは無いとおもいますよ。完全に別のお話になってますからね。(原作通りです!)でも、面白い。さすがは田中友幸の製作!しかも、公開は『ゴジラ』の1カ月前で、じっさい伊勢志摩で両作の撮影隊は並行して撮っていたらしいからね。完全に円谷英二の特撮班も並行して撮影してますね。しかも、夕焼けの情景とか、灯台のサーチライト等の物語上重要なポイントを作画合成やアニメ合成で担っており、カット数も多い。ほとんど特撮映画と呼んでいいくらいなもの。
■なんとってもハツエを演じた青山京子が溌溂として素直に魅力的だし、島の有力者で頑固な父親を演じた上田吉二郎も見事な配役。あまり台詞もない役だけど、何もしないうちから存在感を漲らせることができたのは脚本の巧みな話術にもよる。はじめは無責任に二人の噂を言い立てていた島の女たちがついに、二人が可哀そうだと決起して、肝心のシンジの母親を置き去りにして集団で上田吉二郎の家に押し掛けるシーンなど、いかにも戦後民主主義的な場面だが、傑作な見せ場。中村真一郎、映画の脚本上手いなあ。この縁があって、後に『モスラ』の原作を書くことになったのだろう。
■そもそも谷口千吉のために準備されていたインドネシアとの合作映画が頓挫したために、その代替企画として開発されたのが『ゴジラ』であって、谷口千吉は合作映画の代わりに『ゴジラ』ではなく本作を撮ったわけだ。(そのため田中友幸が製作)しかも、ゴジラの原作者の香山滋は大蔵省では兼業作家として三島由紀夫の先輩にあたるのだ。その意味でも、本作は日本特撮映画史上に深い因縁を持っており、舞台となる神島は『ゴジラ』の大戸島とダブって見える。この後、二人は島に上陸したゴジラに蹂躙されるのではなかろうか。
■というか、シンジが立ち向かうのが台風ではなく、島に上陸したゴジラであっても不思議ではないのだ。シンジは古から伝わる神のような怪物に立ち向かって島から駆逐することで、島民に認められて一人前の男になってゆくのだ。原作者の三島由紀夫も『ゴジラ』を見てそんな幻想にとらわれたのではないだろうか。