ハマのチンピラ娘を拾い上げてファッションモデルに仕立て上げたには、深いワケがあってだな『花を喰う蟲』

基本情報

花を喰う蟲 ★★☆
1967 スコープサイズ(モノクロ) 99分 @アマプラ
企画:仲川哲朗 原作:黒岩重吾 脚本:中島丈博 撮影:安藤庄平 照明:吉田協佐 美術:千葉和彦 音楽:山本直純 監督:西村昭五郎

感想

■なんだかこの時期、二谷英明は色事師というキャラクターで売っていたのか(?)、知る人ぞ知る快作シリーズ『賭場の牝猫』と同様に、素質ありと見込んだ女に特定の技術を仕込んで、自分の目的のための道具として利用しようとするが愛してしまったために事態がややこしくなるという役柄を連続して演じている。本作も全くその路線だし、そもそもこのストーリーラインはどうみても増村保造にしか見えない。

■ハマのチンピラ娘(太地喜和子)を拾い上げてファッションモデルに仕立て上げたのには、深いわけがあってだな。俺の女房(月丘千秋)を寝取った商社の社長(清水将夫)と政治家(富田仲次郎)の癒着と汚職の証拠を掴むために、お前を利用させてもらうぜ。手始めに、社長の一人息子(花ノ本寿)を篭絡するのだ!

■といったようなお話(確かそんな感じ)で、二谷英明の遺恨と復讐のために太地喜和子を利用しようとイイ女に育て上げるが、女は男の思惑を超えて自分の意志で自由に動き出す、という女性の自立のお話。なので、ほとんど増村保造の映画。大映でそのまま増村が撮ればいいのだ。ただ、原作を十分に咀嚼できていない感じで、いたずらにプロットが複雑になっている。増村なら、もっとテーマに沿って刈り込んで、スッキリした図式劇に仕立てるだろう。

■脚本は若き日の中島丈博が書いているけど、まだ十分に素材をコントロールできていない、あるいはその自由裁量が与えられていないようで、原作由来の事件の描写に手間取るから、女の自立という肝心のテーマが十分に立ち上がらず、骨組みしか描かれないので肉付きが弱い。そこが増村映画に比べたときの弱点で、逆に言えば増村映画って、ホントに原作をうまく脚色していたのだ。同じ黒岩重吾の小説を『夫が見た』に翻案しているが、あれは経済事件と女の自立が見事に綯い交ぜにされた稀有の傑作だった。その意味で、西村昭五郎には増村保造ほどの明確な演出意図は無かったのだろう。あるいは、増村保造のモノマネに見えてしまうのが嫌だったのかもしれない。

今村昌平中平康が展開した日活性愛映画の路線で企画された映画なので、濡れ場も多く、すでにロマンポルノを予見しているが、残念ながら風俗劇のレベルを抜け出す程の意思が感じられず、それは西村昭五郎の中に描くべきテーマに対する切実な確信がなかったとしか思えないのだ。太地喜和子と太田雅子(梶芽衣子)のレズシーンなんて、趣向としては悪くないんだけど、趣向にとどまり、大映の『ひき裂かれた盛装』の妙なリアリティに比べると大甘なのだ。

参考

これは増村保造の文句なしの傑作映画。純粋に、風俗映画でエロ映画だけど、崇高な人間像を描き出す古典的な悲劇。ホントに凄いので必見。
maricozy.hatenablog.jp
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黒岩重吾といえば、大映のこれも忘れられた意外な佳作で、ほとんど同じ話のような気もしますね。
maricozy.hatenablog.jp
これも黒岩重吾モノですが、残念作。部分的にはすごく秀逸なシーンがあって、そこだけ繰り返し観たいくらいだけど、原作小説に忠実に関西エリアで映画化したほうが良かったと思う。
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これは間違いなく秀逸な娯楽映画。低予算映画なのに、中尾利太郎のキャメラが妙に重厚で豪華。そして野川由美子
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