映画史を書き換えろ。俺たちは見世物じゃねえ!『NOPE』

基本情報

NOPE ★★★☆
2022 スコープサイズ 131分 @イオンシネマ京都桂川(SC12)

感想

ジョーダン・ピールの新作で、撮影監督は大作映画で働き盛りのホイテ・ヴァン・ホイテマが担当するSF大作(?)といっても、ジョーダン・ピールのことだから一筋縄ではいかなくて、いわゆるリアルなお話ではない。どちらかといえば寓話系だけど、それも相当歪なものだ。

■お話全体が、黒人の視点から映画史に異議を述べるというものだし、一方的に見られることの暴力性を提起し、映画の成り立ちそのものに対する批評でもあるからだ。「見られる」という暴力にさらされるものが、優位にあって権力と化した「見るもの」に対していつか激烈な反撃に出ることを宣言する、そして、映画誕生の原初にあったように黒人が映画の中心に復帰することを宣言する(文字通りそう描かれるのでビックリする)、映画史的革命宣言映画なのだ(ホントに?)

■映画発明の原初のに馬に乗る黒人の姿があったという史実と、テレビドラマに出演する(させられている)おサルが逆上してスタッフに暴力を振るった実在の事件を繋ぎあわせて、ちょっと普通の映画人では思いつかないお話を編み出してしまった。なので、本当ならば観客を選ぶ映画になるはずが、サービス精神と活劇精神で、大きなカタルシスをもたらすのは、凄い。

■出そうで出ないアレがクライマックスには堂々と登場するだけで、待ってました!という気持ちになるし、しかも白昼堂々と大暴れというのが素晴らしい。中盤の暗躍は月明かりのナイトシーンで、しかもホイテ・ヴァン・ホイテマが遠方まで精細な夜間シーンを撮影できるように、通常のフィルム撮影と赤外線によるデジタル撮影を同時に行って合成するという新システムを開発(前作からの発展らしいけど)、その成果は映画館で確認すべきもの。しかも、実は夜間撮影ではなく、疑似夜景に、デジタル処理で窓の灯などを合成したものだ!もったいないのは、映画館内の通路の照明などが視界に干渉することだ。詳しくは、以下の記事を参照。
www.kodakjapan.com

■クライマックスでは、電気機器に干渉するアレを撮影して一攫千金を狙うために年代物の手回しキャメラを据えて、アレをおびき出す大スペクタクルで燃える。『ゲット・アウト』でもジョーダン・ピールは活劇の上手い人だと思ったけど、本作は活劇とスペクタクルの塩梅が絶妙。しかも、『ゴジラ2000ミレニアム』にそっくりなカットもあって、アレ好きにはたまらん見せ場。アレがちゃんと大活躍するし、ちゃんとアレの弱点が描かれているから、反撃の手段も身近な有りものを組み合わせた合理的なパッチワーク的な手法になる。それでいいし、そうじゃなきゃだめなのだ。エヴァンゲリオンとも言われているけど、『宇宙大怪獣ドゴラ』だよね、アレ。もちろん、前半のサスペンスには『サイン』が参照されているし、ホントに楽しい映画でしたよね。クライマックスの勇壮な燃えるメロディカルな劇伴も、最近のハリウッドでは珍しいタイプのスコアでした。

参考

ちょっと違うけど、大括りにすれば同類?『宇宙戦争』は良いよね。
maricozy.hatenablog.jp
みんな『サイン』は好きでしょ?大好きだよこれ。
maricozy.hatenablog.jp
ホイテ・ヴァン・ホイテマって、これ撮ってたのね。全くイメージが合わないけど、『ぼくのエリ』だ!
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
ゴジラ2000ミレニアム』は特撮に見どころがあります。賛同者が少ないけど、鈴木健二はなかなか良い演出家だと思います。
maricozy.hatenablog.jp

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