原宿族の生態を抉れ?山本圭が可愛くグレる異色作『君が青春のとき』

基本情報

君が青春のとき ★★★
1967 スコープサイズ 94分
企画:大塚和 脚本:山田信夫倉本聰、加藤隆之介 撮影:萩原憲治 照明:大西美津男 美術:坂口武玄 音楽:小杉太一郎 監督:斎藤武市

感想

■TBSの新人ディレクター(吉永小百合)は原宿族の自堕落な生態を世間に訴えるべく、潜入取材に突入するが、騙されて心を許した純な青年ピン公(山本圭)に対する罪悪感から取材の断念を決意する。。。

吉永小百合が新米テレビディレクター役を演じる異色作。入社一年目の新人ディレクターがドキュメント番組の企画を採用されるというのはいくらなんでもありえないと考えるますが、いかがなもんでしょう。1967年当時のこと、TBSでは局のディレクターが「ウルトラマン」なんか撮ってる頃ですね。その中には若手の実相寺昭雄もいたけど、30歳くらいですね。ただし、演出家デビューは入社2年目くらいだから、黎明期のテレビ局は人材の登用が早かったようですね。凄いね。伸び盛りの業界だな。

■お話としては意外とよくできていて、新人ディレクターの演出デビュー作での挫折を描く苦いお話で、印象としてはアメリカ映画にありそうな素材と描き方。日本映画には珍しいと感じる。企画が大塚和なので、やっっぱり普通の青春映画ではなく社会派青春映画で、マスコミと取材対象の距離感について描いている。全く同時期に大塚和が監督デビューさせた今平が『人間蒸発』を公開していて、取材する側とされる側が一線を踏み越えるお話(というか実録)なので、今平の意欲作に対する日活の返歌とも考えられる。

■1965年から1967年ころまで風紀の乱れや交通問題が地元で問題視されたらしい「原宿族」の生態をえぐるといいながら、彼らの生態も実態も、実は何も描かれていない点が最大の欠点。山本圭がその代表選手として注目されるが、人間像の描き込みはほとんどないに等しい。単なる根無し草のチンピラといった風情で、山本圭本人も演じるのに苦労しているように見える。いつもの左翼論客キャラではなくて、妙にふにゃふにゃした頼りない演じ方で、サングラスを外さない。

■それでも、このピン公が可愛く見えてくるから、映画は一定の成功をおさめる。寂しげに去る後ろ姿の哀しさ。彼はどんな人間で、何を考え、それは「原宿族」ゆえの問題だったのか、ピン公の個別の問題だったのか、そのあたりは何も具体的に描かず、映画の主題はマスコミ人の倫理の問題に集約してゆく。その意味では尺が足りなかったかもしれない。

■原宿族のたまり場で流しの女ギター弾きと山本圭がデュエットする場面がなかなかの傑作で、雰囲気あるきれいなお姉さん風のギター弾き(凄い設定だな)を演じるのが、斎藤チヤ子で見事にバッチリな雰囲気美人。「怪奇大作戦」の『京都買います』の美弥子さんじゃないですか。もちろん、その前の映画ですが、大人っぽい憂い感が堪りませんね。まだ若いのに!

■監督の斎藤武市は小津調の文芸映画にオリジンがあるのだが、娯楽映画路線でも卓越した手腕と感覚を発揮している、なかなかすごい人。本作も冒頭で内藤武敏演じる部長のデスクの前で自分の企画について長弁舌を振るって部長のお茶を勝手に飲むや「ぬるい!」と言い捨てるシーンからタイトルに切り替わる導入部分なども見事な演出。

■ちなみに英語タイトルは『Hippie Love』となっていて、ぐっとくるけど、でもお話のテーマはマスコミ人の報道倫理の問題なので、タイトルに偽りありだね。

参考

斎藤武市はいい映画を撮ってますよ。当たり前だけど。
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