殿下、さようなら!しれっと復活した幻の映画『孤獨の人』

基本情報

孤獨の人 ★★★☆
1957 スタンダードサイズ 87分 @アマプラ
企画:児井英生 原作:藤島泰輔 脚本:中沢信 撮影:高村倉太郎 照明:大西美津男 美術:松山崇 特殊技術:日活特殊技術部 音楽:斉藤高順 監督:西河克己

感想

上皇がまだ皇太子だった頃。学習院高等科の御学友たちは、それぞれの青春の姿が殿下の影響下にあることを知り、同時に殿下の孤獨に思いを致すのだが。。。

■一応主演は津川雅彦で、学習院に途中から編入してきて皇太子の御学友に選ばれるが、実は叔母に当たる熟女(月丘夢路)と交際中の不良でというお話と、小林旭芦川いづみプラトニックに愛し合うが、その背景に殿下の御学友というレッテルがあったことを知って愕然とするというお話がほぼ等価に置かれる。「孤獨の人」は皇太子だけではなく、その学友たちもまた、その影響下において望むと望まざるとに関わらず人生に大きな影響を受け、ある種の孤独を強いられたというお話で、それぞれの青春と、皇太子に対する想い(片思い?)を描く、なかかなの曲者映画で、意外と面白い。

■一人の人間なのに、たまたま皇太子に生まれたゆえに、不自由で孤独な生活に押し込められている同級生に同情し、一種の義憤を抱くのが千石と岩瀬。一方、幼い頃からの御学友で、そうあるべきことに疑問を抱かず、押し込める側にいることを自覚的に演じる京極。その対立がドラマの核になる。

■何故かクレジットのトップは月丘夢路で、当時の日活のトップスターとはいえ、その扱いの大きさは今から見ると謎でしかない。華族出身で軍人の妻となるが不義を働いて家を追い出された女。叔母であるその女と夜な夜な盛り場に繰り出して不純交友を重ねる高校生の青年。クレジットの大きさとは無関係に、面白い人間関係が描かれているし、それだけで独立した映画になりそうだが、エピソードとしてはやや中途半端に感じる。月丘夢路サザエさんみたいな変な髪形以外は悪くないし、非常に意欲的ないい映画を残している人なのだ。日教組製作の『ひろしま』で原爆に焼かれた女教師が、華族を裏切って皇太子の御学友を悪い道に誘うワケアリの女として登場するあたりも、何か変な(強烈な?)こだわりを感じるなあ。というか、明らかに意図的に選んでますよね。
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■殿下を夜の銀座に連れ出す場面がクライマックスに置かれ、たまたま千石と銀座で遭遇した岩瀬らは、その小さな反抗の成功に快哉をあげる。銀座の花売り娘から花を買ってあげる場面とか、このあたりは西川克巳の演出も快調で、彼らの企みをヒヤヒヤしながら見守る刑事の視点をうまく交えて、上出来だし、その後の岩瀬らに対する宮内庁や学校の叱責と、たった一度の小さな反抗がきっと良い思い出になることを祈りながら、それぞれに万感を込めた「殿下、さようなら」と見送る場面も感動的。

■もちろん、皇太子は画面に直接は登場せず、手元とか背後が映る程度。そこまで気を使うのかという昭和32年の映画。常に庶民は天皇家に対して強烈な片思いを抱いてきたわけだが、その間には大きな断絶があった。それこそが片思いの所以。学友たちのそれはまた余計に濃厚だし、その孤独さも分かち合っていたというわけだ。それは邪推とか忖度の類だっかたもしれないけれど。

参考

▶原作小説がまだ読めるのだ。面白そうだな。

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