夫婦(めおと)エクソシストに強敵出現?『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』

基本情報

死霊館 悪魔のせいなら、無罪。 ★★★
2021 スコープサイズ 112分 @Tジョイ京都

感想

死霊館シリーズの第三作で、死霊館ユニバースとしては7作目にあたる本作、非常に煽ったサブタイルのせいで胡散臭い印象を与えてしまうが、れっきとした(?)実録路線。殺人事件を起こした青年が「悪魔がそうさせた」と主張して裁判を闘った「アーニー・ジョンソン事件」をドラマ化したものだが、どこまでが実録でどこからが創作なのかは、以下の記事を参考にして欲しい。このタイトルだと今回は裁判映画なのかと誤解するところだが、実は裁判シーンはほぼ無い。しかも、今回は呪われた屋敷ものではないのだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6639d0163d8845511bbc62d7b734fb1caa942a7f?page=1news.yahoo.co.jp
■ウォーレン夫婦は、アーニーによる事件の発生前から悪魔憑き事件に関与して、悪魔がアーニーに転移したことを悟ったエドが次なる惨事を予見するものの、心筋梗塞で入院している間に、殺人事件が起きてしまう。犯人として逮捕されたアーニーは悪魔が殺人を起こさせたと主張。ウォーレン夫妻が家の軒下を探索すると、呪物が発見される。誰が何のために?調査をすすめると、同様の手口の殺人事件が起こっており、犯人が行方不明になっていると聞くと、夫妻は協力を申し出る。。。

■端的に言って、監督のマイケル・チャベスは基本的に虚仮威しの人なので、恐怖演出は冴えない。前作の『ラ・ヨローナ 泣く女』を観ればわかりますが、そこは予想通りです。

■問題は脚本の出来栄えで、デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック(長い!)の作劇がどうだったかということだが、肝心なところで工夫が足りない。死霊館シリーズは別名「オカルト夫婦善哉と呼ばれるように(?)、ウォーレン夫婦の夫婦愛が基調にあり、どんなに悲惨で凄惨な事件が起こっても、この二人の夫婦愛というか、心霊研究の戦友としての紐帯は不滅というところがいちばんの見所で、そこをどう描くかが成功かどうかのメルクマールとなる。

■その点で本作は今ひとつ突き抜けていない。というか締めくくりが平凡すぎる。要は夫婦の出会いのエピソードが他愛なさすぎるということで、ここが甘いからクライマックスもありきたりな展開に終始する。

■このシリーズはいわば「病妻もの」の変形であって、霊能者ゆえに心身に大きなダメージを受けつづけているロレインをナイスガイのエドがいかに支えつつ、戦友として同じミッションを共有して戦ったかというところが見どころで、そうした夫婦の尊さ、美しさを称賛するシリーズなのに、本作はエドを病気にしてしまったので、心身ともに脆いというロレインのキャラクターの魅力が減退している。今回は中年夫婦ものとも言えるので、杖を付いて辛そうに歩くエドの姿は、それなりに感慨深いものはあるが、ドラマとしてあまり面白くならないし、中年夫婦ものにするなら倦怠感や中年の危機を描かないと意味がないよね!

■コアとなる夫婦の過去のエピソードは、神から何故か授かった特異能力を受け入れきれずに病むロレインをエドがいかに支えたかという、本作のコアの部分に絡まるものではければならないはずなのだ。本作の脚本は、そこが分かってない。

■呪いの真相に絡まるドラマももう少し深堀りしないと人間のエグミが出ないし、物理的な解決にするにしてもひねりが足りない。過去に散々悪口を書いてきたゲイリー・ドーベルマンのほうがそこは律儀に工夫していて、中盤は冗長になるのが悪い癖だけど、ちゃんとクライマックスには玄人筋も納得させる納得のツイストを用意してくるから憎めないのだけど。

■もちろん、若き日のエドとロレインの雨の東屋のエピソードは、聖書詩篇にあって、本作でも触れられる「主はわたしの岩、砦、逃れ場 わたしの神、大岩、避けどころ わたしの盾、救いの角、砦の塔。」という件(くだり)に呼応していて、特定の教会に属さない彼らの、悪魔的な災厄からの逃れ場を象徴していて、だからクライマックスで想起され、単なる甘い愛の思い出だけではなく、神の加護の象徴として、悪魔崇拝のアジトで水平に配置された祭壇とも対比構造を形作っているから、ちゃんと筋は通っていて、何も考えていないわけではないが、映画的な作劇として弱いのだね。

■ひょっとして死霊館本線シリーズは、次回に一気に過去に遡って、二人が結ばれるに至る経緯を若手キャストで描くつもりじゃないかな。だといいなあ。でも、老いてゆく夫婦の姿も引き続き観たいので、そこもよろしく。本当に怖いのは悪魔か、老いか?立派なテーマじゃないか。

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