君は「猫400号実験」を知っているか?公害は過去の問題ではない『MINAMATAーミナマター』

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基本情報

MINAMATA ★★★
2021 ヴィスタサイズ 116分 @イオンシネマ京都桂川

感想

■おれは結構有名な写真家のユージーンだ。でも色々と人生辛いことばかりで、写真雑誌もくだらん広告ばかり、もう人生やめたいぞ。と思ったら、アイリーンというキュートな娘がやってきて日本の水俣で起こっていることを写真に記録してほしいと言いやがる。面倒くさいから追い返したけど、戦時中に沖縄には行ったこともあるし、日本と聞いて何か心に響くものが。でもやっぱりやめときゃよかったかも。。。

■なんと水俣病の映画をハリウッドで製作という信じられない企画だが、主人公が実在の写真家ということで、チッソの社会犯罪、会社犯罪を描くというよりも、写真家たるものの心得を描いたお仕事映画にも見える。実際、助手としててほどきしたアイリーンが、最終的には決定的な一枚になる「入浴する智子と母」の現場セッティングをすべて行って、ユージーンはシャッターを切っただけという描き方になる。写真は撮られた者の魂を奪うだけではなく、撮ったものの魂も削るのだという台詞が、彼の陥った生き地獄=写真家の業を意識させる。でも、水俣では無辜の民が生まれながらに生き地獄に繫がれているのだ。

■実際、ユージーンは報道キャメラマンではないので、最後まで姿勢が揺れ続ける。チッソの社長に大金を積まれれば、やっぱり迷う。人生に疲れて、子どもたちとも断絶して、才能の枯渇を自覚し、孤独の中にある。そこにヒロイズムが全く無いのが良い。彼は水俣で起こった出来事の傍観者で、あくまでストレンジャーなのだから。

■とにかくいちばん惜しいのは、日本でロケを行っていないことで、あのキャストをそのまま日本の風景の中に置きたかった。映像京都の西岡善信が生きていれば、京都の撮影所を受け皿として、京都近辺や瀬戸内地区をロケ地として、リアルな映像化ができただろうに。ここはホントにもったいない。太秦の職人たちを動員すれば、1971年当時の水俣の街をもっとリアルに再現できただろう。本作はセルビアで撮影され、現地に住む日本人たちがエキストラとして参加していて、よく成立したものだと感心するが、もっとリアルにできたはずだし、水俣病を描く劇映画が今後製作されるはずもなく、千載一遇のチャンスだっただけに、日本の映画人も悔しがっているだろう。京都を中心に撮影すれば、もっと色んなことができたのに!

■公害を正面から扱った劇映画は、実は意外にも少なくて、それこそ水俣については、記録映画がたくさんあるものの、劇映画は存在しない。おそらく、当時のテレビドラマや刑事ドラマなので、公害病をモチーフとしたエピソードがあったはずだが、今では完全に忘れられているだろう。『ゴジラ対ヘドラ』がかろうじて生き残っているが、本作は公害問題は決して過去の歴史ではないことをラストに念入りに提示してみせる。

■さらに勿体ないのは水俣病を巡る会社、運動、患者たちの絡み合いのダイナミックな全体像が十分に描かれていないことで、でもこれを盛り込もうとすれば、確実に150分映画になってしまう。しかも、日本ロケが必須となるだろう。でも、チッソ社長を演じる國村隼の「PPM発言」の台詞がよく書けているので、辛うじてその欠けたピースが少し浮かばれた気がする。有機水銀も海の水に比べれば目に見えないくらいのごく微量でしかないし、抗議する水俣の民も、目に見えないくらいに取るに足りない僅かなものだ、という大企業の論理を辛うじて浮き彫りにするからだ。ラストの重要な決定も含めて、國村隼は本作のいちばんの儲け役ではないか。

真田広之も役柄があまり入念に描かれないので脇役のひとりだし、加瀬亮浅野忠信も同様。一方で、アイリーンを堂々と演じる美波はすごい存在感だし、水俣病の娘をかかえる母を演じた岩瀬晶子も印象に残る。なぜか女優陣が強烈に印象に残る映画なのだ。

参考

▶この本は古本で読みましたが、非常に良い本でした。チッソの戦前の朝鮮半島での全盛から始まる社史を踏まえて、戦後引揚者で構成された水俣工場の成り立ちを前説として、企業の内側の視点から秘められた事実をサスペンス豊かに解き明かす労作。しかも、非常に読みやすい筆致。

熊本大学水俣病の原因はその独特の症状から有機水銀と発表したが、チッソは工場内の触媒には無機水銀しか使っていないと主張し、熊大は魚の体内で無機水銀が有機水銀に変化したとでも言うのかと強く反論した。でも、チッソ内部の技術者は、工場内の処理途上でメチル水銀化合物(有機水銀)が人知れず発生しており、排水に含まれていることを独自研究で抽出し確認していた。でも当然握りつぶされていたという事実。

このチッソ側の視点からぜひ企業ドラマ化して欲しい。映画を見て「猫400号実験」も「HI実験」も出てこないじゃないか、物足りない!と感じた人は必読の書。何らかの形で復刊すべき。

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