美女と液体人間  ★★★

美女と液体人間
1958 スコープサイズ 87分
日本映画専門CH
原作■海上日出男 脚本■木村武
撮影■小泉一 照明■西川鶴三
美術■北猛夫 音楽■佐藤勝
特技監督円谷英二 監督■本多猪四郎

■かなり綺麗な映像マスターで、昭和33年当時のイーストマンカラーの発色の限界も、解像度の甘さもかなり正直にそのまま反映している。考えてみれば、ノーカット、ノートリミングのこんなに綺麗なプリントは初めて観た。

■脚本的にはそれほど完成度が高いわけではないが、それでもいろんな要素が綯い交ぜになっており、大人の理解で想像しつつ観れば、かなり面白い。特に、今回は白川由美の色っぽさに心惹かれた。アメリカ映画なら、佐原健二白川由美がちゃんと恋仲になるところだろうが、東宝特撮ではそのあたりは非常にあっさり描かれるが、これは今考えると、田中友幸の指示だったのだろう。指示というか、趣味かもしれない。アメリカ映画を真似るなら、当然というか、無理やりでも、恋仲にするところを、むしろ、液体人間掃討のスペクタクルに強引にシフトさせるあたりに田中友幸の志向が顕著に顕れており、本作ではそのバランスが非常に面白い味を生んでいる。今作れば、もっとメロメロで、サスペンスとスペクタクルを煽ったあざとい感じの演出になりがちだが、どれも控えめで、押し付けがましくないところが本多猪四郎の趣味のよさだ。

■その淡白な演出のなかでも、ヤクザの情婦で、クラブ歌手である白川由美のクラブでの歌唱(もちろん吹替え)場面でさらりと色っぽさを出し、どちからといえば、お堅い令嬢風の美貌を崩してみせるあたりも見所だ。佐藤允に拉致される追跡場面など、ヒッチコックの「めまい」の追跡場面の官能的なサスペンスを先取りしている。ちょっと浮世離れした感じの佐原健二の役どころも面白く、研究の虫といったおっとりした性格の若者が、白川由美を探して下水道に決死の探索を行うラストの変貌ぶりがもっと際立てばドラマの核が鮮明になったと思われるが、作劇の意図は十分うかがい知ることができる。あえて強調しないのが、本多猪四郎流だ。

© 1998-2024 まり☆こうじ