GS歌謡怪獣映画、ここに誕生せり!『大巨獣ガッパ』

基本情報

大巨獣ガッパ ★★★
1967 スコープサイズ 84分 @アマゾンプライムビデオ
企画:児井英生 原案:渡辺明 脚本:山崎厳、中西隆三 撮影:上田宗男 照明:土田守保 美術:小池一美 音楽:大森盛太郎 監督:野口晴康
特殊撮影
撮影:柿田勇、金田啓治、中村義幸 美術:山本陽一 照明:高橋勇 協力:株式会社日本特撮映画 渡辺明、菅沼峻、真野田幸雄、大隅銀蔵

感想

■お話は有名なあれなので措くとして、特撮部分に関してはなかなか見どころは少なくない映画ですよ。キレイなリマスター版で観ると改めてそう感じる。

オベリスク島の巨石像のシーンもオーソドックスに撮られているし、地下湖のセットもかなりの力作で、本編セットもさすがに重厚。子ガッパの誕生も、もっと丁寧に描けるとは思うが、悪くない。ぬいぐるみ等の作り物がもう少し柔軟だったらと感じる。

■ガッパ夫婦の熱海上陸場面も、日本特撮映画には東宝で光学撮影の担当だった真野田幸雄がいるから合成カットの作り込みに関してはなかなかのもの。実際の合成作業は東洋現像所で行ったのだろうが、有名な宴会中の広間をガッパの足が踏み抜くカットなど意表を突く名シーン。熱海の街のミニチュアセットも相当に大きなもので、ミニチュアワークも悪くない。問題なのは、その撮り方と編集に、このジャンルに対する慣れがないこと。個々のカットが有機的に繋がらないから、怪獣側のドラマが生まれない。母ガッパがゆでダコを咥えて上陸する有名なシーンもちゃんと点描でフォーカスを当てないと意味がない。

熱海城付近での戦闘機との大乱闘も描写は荒く、ガッパの吐く熱戦をちゃんと線画合成で表現するのはさすがに元東宝スタッフの仕事だが、光線があっちこっちにランダムに飛びまくるのはあまりにも残念。このあたりのセンスの欠如は如何ともしがたい。

■湖からガッパ夫婦が飛び立つと濁流が街を飲み込むという東宝特撮のエッセンスを踏襲した優れた演出と大胆な合成カットは見事だが、京浜工業地帯のコンビナート地帯に乱入するミニチュアワークはこれも撮り方の問題で冴えない。せっかくあれだけ豪華なミニチュアセットを組んでいるのに。あの雑な撮り方。

■正直ここに至るまで肝心のガッパ夫婦のドラマ(怪獣映画の場合の怪獣側のドラマとは、怪獣の生き物らしい生態や出現した目的や独特の行動様式などなどのこと)だが、これがほとんど描けていない、ガッパはただ棒立ちして歩き回るだけなのだ。ここに特撮演出の不在が露見している。正直なところ、特撮班の現場監督は誰だったのかと怪しむ。おそらくは大ベテランの渡辺明が演出指揮をとったものだろうが、演出家としては疑問が残る。ちゃんと子ガッパに呼びかけながら姿を探す様子が表現されないと様にならない。

■ところがおかしなことに、クライマックスの羽田空港でのガッパ親子再会の場面になると、急に怪獣演出に血が通ってくる。わかりやすいドラマの背骨が一本通ることによるのかもしれないが、明らかに怪獣を描くカット割りが丁寧になる。それまでの破壊シーンは現場でいろんな撮り方をした断片を適宜つないだ風にしか見えないモンタージュだが、ラストシーンだけはコンテがしっかりしていて、コンテ通りに撮られている印象なのだ。想像だが、ラストシーンの演出には本編の野口監督が演出にタッチしているのではないか(あるいは監督補の橋本裕や林功かも)。そもそも特殊撮影班のキャメラが大東宝でもないのに3人も並んでいる時点から、複数班同時進行の可能性大なのだ。

■そしてガッパ親子の翼の仕草やアップの表情で情感を生み出してゆく正攻法の演出術がここではちゃんと機能していて、だからこそ妙に感動的なラストシーンとなっている。父ガッパが先に飛翔して、逡巡する子ガッパに翼をバタバタして飛び方を教える場面など、おそらく完璧なカット割りであり、子ガッパが見事な操演で初めて離陸し、そして母ガッパが同じカット内で飛び立ったのを確認して父ガッパが華麗に舞い上がる、操演と演者の呼吸が見事にシンクロした名ショットの感動は決して東宝の怪獣映画に劣りはしない。

■そして、怪獣だって人間だって親子の愛情に変わりはないの!と幼子に諭されて、強欲社長ならずとも、ついホロリとさせられるラストでは、童謡調のサブテーマからGSテイスト(あるいはエレキ歌謡と呼ぶほうが正確か)全開なテーマソングにつながる爽快さは、なかなか捨てがたいものがある。この時期、日活映画はザ・スパイダースを主演とするGS歌謡映画に力を入れており、青春映画にはGSサウンドが欠かせない!とにかくなんでもGS要素をぶち込んでおけ!くらいの前のめりの機運があったに違いない。本作もついに怪獣映画とGSサウンド(エレキ歌謡?)が合体して、美樹克彦の名曲を生んだ。マジックアワー狙いの羽田空港のロケ撮影も妙にキレイで、実に後味の良い、気持ち良い怪獣映画になっている。

■そう言えば、このとき生まれた子ガッパも、いまや”天命を知る”年齢ですね。遠い南の島で何を思うことでしょう。とおさん、かあさんは今も健在ですか?

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